2014.02/05 STAP細胞発見の意味(5)
昨日幸運のプロセスについて書きながら、入社4年そこそこの若僧の提案に2億4千万円の先行投資を決断してくださった社長のことを思い出した。転職前に在籍したゴム会社は、人材育成に力を入れており若手活用に長けた会社だった。この会社ではいろいろあったが、社長の前のプレゼンテーションの思い出はその後の研究生活で心の支えになっていた。毎年1度は会社の幹部の方が新設された研究所を見学に来られ一人で歩いた死の谷の数年間を短く感じた思い出がある。
最近は、目標管理を導入し人事評価を成果主義で行っている企業は多いと思う。その時今回のSTAP細胞発見と同様に適切な評価ができているだろうか。新聞報道ではSTAP細胞の研究企画とその立役者は小保方さんである、と誰もが見えている。ものすごく透明性が高いのだ。
企業で同じような成果が出たときに企業機密の問題もあるのでこれほど透明性を高めた報道をしにくいだろう。この点はしかたがないが、企業内においてその成果の評価まで正しく行われているかどうかについて疑問がある。少なくとも自分の体験から現在の国の研究所ほど公平性と企業内の透明性が進んでいる企業は多くはないと思う。例えば10年以上前の事例だが青色発光ダイオード発明の話題では見苦しい企業内のゴタゴタが表に出た。
10年ほど前、高分子同友会で高分子学会賞を受賞されたUさんを招いて研究管理の勉強会を行った。その時話題提供されたUさんが、「技術の立役者は自分ではなくXさんで、彼は研究開始から数年間死の谷を歩かれた後他部署へ異動し、自分があとを継いだ時に今日の成果が出た。だから学会賞メンバーに彼の名前を入れました」(注1)と説明された。勉強会に参加された方は皆感動した。しかし、冷静に考えれば当たり前のことである。
後を継いだ方の誠実、不誠実でその事業の功労者が変わるというのも妙な話だが、それが現実である。Uさんの誠実さはしみじみと伝わり、このような人と一緒に仕事をやりたい、と感じた参加者は多かったはずだ。
経営判断の原則はプロセス責任であり、多くの会社の研究企画プロセスは、いまやステージゲート法あるいはそれに準じた方法が定番となりつつある。研究者の人事考課をこのステージゲート法と連動し行っている企業も多いと思う。しかし時としてこのプロセスからはみ出た成果が出る場合がある。またそれくらい活性化された研究所であるべきだが、その時にそれを正しく評価できるかどうかは中間管理職の力量に依存する(注2)。
しかし正しく行われなかったときの会社の風土に与える損失が大きいことをトップは認識すべきである。今回のSTAP細胞の報道から研究成果の取り扱いについて国の研究所の透明性(注3)を知ることができたが、その結果若手育成についてもいつのまにか企業より恵まれた環境になっていることが明らかになった。
(注1)Xさんの所属が研究開発とは無関係の職場であり、参加者メンバーからその部署の役割について質問が出た。その時の回答。
(注2)そもそも新しい研究シーズが生まれるような風土作りは、全社方針も重要だが中間管理職のマネージメントが風土に与える影響が大きい。
(注3)新聞記事は小保方さん中心であったが、その研究に関わった方々の談話でも感動した。大きな発明は多くの人の協力で実現する、という典型例だろう。ただし創造という活動の多くは、個人の努力の賜で、ブレークスルーした立役者がそれなりに評価されたかどうかはその後の企業風土に影響する。うまくできない企業はイノベーターが育ちにくい。
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