2014.03/09 古くて新しいセルロース(3)
セルロースが高分子であるがゆえに観察される性質について、結晶性高分子と非晶性高分子の視点で概説する。
ここで、非晶性高分子とは、結晶化しない高分子を意味する。そのような高分子は、成形加工などのプロセスでも結晶化することはない。ゆえに密度や弾性率は結晶化した高分子よりも低く、一般に力学物性が劣るとされる。しかし無機ガラスと同様、光学的均一性が高くなるため、結晶特有の性質を利用しない光学特性が要求される分野には、不可欠な高分子である。
セルロースは、光合成により反応が進行し、高分子量化したものであり、そのつながった構造を一次構造と呼ぶ。この一次構造が不規則であると非晶性高分子となる。一次構造を不規則にする方法には、対称性の低い低分子を不規則に並べるか、高分子の規則性のある部分に他の低分子を反応させ、規則性を崩す方法がある。
後者は、規則性が高い天然高分子を非晶性高分子に変える手段として有効で、合成セルロースの一部は非晶性である。余談だが、光学用高分子として供給されている石油由来の合成高分子のほとんどは、ここで述べる非晶性高分子ではなく、カタログに非晶性高分子と書かれていても加工条件を工夫すれば結晶化できる。
加工条件を制御して結晶性高分子を非晶化して用いた場合には、加工後の温度条件や力学的要因などで結晶化する場合があり、品質問題が起きる原因となっている。たとえば無機ガラスで観察され、その機構も明らかになっている失透現象の原因の一つは、部分的に生成した微結晶で引き起こされる。
注意深い耐久試験で発見できる現象であるが、非晶性高分子であればそのような問題を心配する必要が無い。セルロースの場合、C6H10O5単位に三個の水酸基が含まれるので、無秩序にこの水酸基を変性すれば規則性が無くなり、完全な非晶性高分子を製造可能である。このような非晶性高分子は、光学分野では現在でも研究開発の対象として重要である。
非晶性高分子に対して、一次構造に規則性がある結晶性高分子は、結晶化した時に結晶化部分と非晶部分ができる。一般に結晶化部分が多くなるにつれ弾性率が上がる。天然のセルロース類を化学修飾しなければ、規則性が失われず結晶化するので、セルロースは高い弾性率を有する。天然のセルロース類は、この力学物性ゆえに古くから活用されてきた。
木の皮をそのまま使用した時代から繊維状の形態で使用した時代になるまでどの程度の月日が必要だったか不明であるが、セルロース系高分子の活用形態としては結晶性高分子としての形態が歴史的に最も長い。パルプはその代表であり、紙の腰の強さは結晶化したセルロースに由来する。スピーカーのコーン紙は、硬くて材料自身は共振しないことが求められ、金属からセラミックス材料まで検討されているが、名器と呼ばれるスピーカーの多くは、硬さとしてセルロースの性質を利用し、振動時のエネルギー吸収を繊維の絡み合い構造で達成している紙を振動板に採用している。
水に溶けるように変性したヒドロキシセルロースは液晶としての性質を示す。http://itf.que.jp/lc/lca.htmlにはヒドロキシセルロースを用いた簡単なアクセサリーの作り方が紹介されている。セルロース誘導体の液晶については現在も研究されており、将来高機能樹脂としての応用例が出てくるものと思われる。次章では、現在のセルロースの応用製品について簡単に紹介する。
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