2014.04/05 樹脂の熱膨張あるいは熱収縮(2)
単一組成のポリオレフィン樹脂で経験した事例。その物性ゆえに品質問題が関係するのでメーカー名を記載しないが、いやな思い出のある材料である。すなわち物性に問題有りとしてメーカーに苦情を言っても改善されなかったためである。
その樹脂はTgを高めるためにバルキーな側鎖基を有しており、光学用樹脂として販売されている。単一組成であるにもかかわらず射出成型条件により様々な高次構造が現れる。このことから単一組成というスペックが怪しくなるが、カタログに書かれていたので、とりあえず単一組成として信じてみた。
このTMAを測定すると、Tg近辺までは通常の樹脂と同じ曲線を描くが、Tgを越えた温度領域でグニャグニャ変化した複雑な曲線を描く。そしてその曲線の形状が射出成型条件で大きく変化するのだ。極端に変化した場合には見かけのTgが上がった、あるいは下がったような曲線になる。カタログに記載されたTgは、温度が高い領域のTgが記載されている。
曲線の形状はともかくも、このTgが射出成型条件により変動する点が気持ち悪い樹脂である。13*℃という温度が記載されているが、低い場合もある。これは材料の耐熱性の品質に影響する。すなわち130℃近辺まで大丈夫な材料として設計すると、射出成型条件が変化したときに低いTgの材料ができ、耐熱性が低下する問題を引き起こす。
実際の開発体験では、ある波長の光をあてて耐久性を計測していたときに問題が起きた。まったく耐久性がないのである。光であたかも樹脂が緩和しているような現象が観察された。しかし、メーカーはその問題を認めない。認めないからその樹脂を用いた開発を失敗することになったのだが、別の部署に異動したときに、またその樹脂に出会った。
ここでは書きにくい品質問題が起きていたのだが、技術の観点で原因は同じであった。しかし、単一組成であるにもかかわらず、射出成型条件で様々な高次構造が現れる問題は現代の高分子科学の世界ではうまく説明することができない。しかし技術としてこの現象を捉えることができる。
すなわちこの樹脂を用いた製品で発生する品質問題である。品質問題を解決するためにピンポイントの条件で、TMA測定時にTg経過後グニャグニャ変化した曲線にならない成形体を作成し、耐久性なり、耐熱性を評価すると少し良好な結果になる。ただ、これは実用的には困難な作業で、現場では品質問題となる。そしてその問題の現象は多成分多組成の材料と考えなければ解決できない問題である。
異動後に他の用途で同じ樹脂に出会ったが、触らぬ神にたたり無し、という考え方でテーマとして扱うことをやめた。問題に遭遇し、解決できない問題と分かっているときには、何もしない、という判断も時には重要である。ただ樹脂供給メーカーにはその問題を解決する責任があり、それができないのは誠実さに欠ける、と言われても仕方がない。外から見る限りは立派な会社だが---・。
やや抽象的な話となったが、これは退職して3年で、まだ具体的に書けない部分が多いためである。
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