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2014.05/08 フローリー・ハギンズ理論(4)

1980年代に樹脂補強ゴムからポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化、そして高純度SiCの事業立ち上げ、電気粘性流体の開発、超伝導セラミックスの開発など多種多様な研究開発を手がけたが、フローリー・ハギンズ理論(FH理論)に必ずどこかでお世話になった。

 

実務では低分子溶媒を用いてSP値を測定していたが、高分子を混合したときの状態予測では、教科書に書かれた高分子のスピノ-ダル分解のマンガを見ながら頭に状況を思い描いていた。もしOCTAのSUSHIがあったなら毎回利用していただろう。

 

有機高分子と無機高分子はそのモノマー単位が有機と無機なのでχは大きな値となる。すなわち絶対に相分離して均一に混ざらない組み合わせである。実例を示せばポリエチルシリケートとレゾール型の液状のフェノール樹脂を混合しようとしてもすぐに相分離する。

 

コロイドを撹拌する専用の混合装置を用いても撹拌しているときにも白濁し決して透明にならず、撹拌を止めるとすぐに二相に分離してくる。フェノール樹脂が重いので沈殿するのだ。とても分子レベルで均一になると思えない組み合わせである。しかしここへ両者の反応に共通して用いることが可能な酸触媒を添加すると様子が一変する。

 

撹拌中に相分離していてもその界面で反応が開始し、透明度が上がってくるのだ。ただしこれは最適な触媒が選択されたときだけで、不適切な触媒、例えば片方の反応速度を著しく早め、両者の反応速度差を大きくするような触媒を添加すると、片方のポリマーだけが反応してゲルになり沈殿してくる。

 

例えば硫酸を用いるとポリエチルシリケートの反応速度が速まりシリカが撹拌中に沈殿してくる。トルエンスルフォン酸であれば量を最適化しない場合にはフェノール樹脂のゲル化が進行し、撹拌中にフェノール樹脂のゲルとシリカとポリエチルシリケートに分離し悲しい状態になる。

 

適切な酸触媒を選択してやると、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の界面で反応が進行し、相分離することなく均一のゲルが生成し、このゲルの炭化物を用いてSiC化の反応を行うと均一素反応の取り扱いが可能となりSiC化の反応エネルギーを求めることまでできる(注)。

 

すなわち、リアクティブブレンドは、1980年代にFH理論で相分離すると推定される高分子の組み合わせでも均一に相溶した状態を作ることが可能な唯一の方法であった。これが21世紀になるとリアクティブブレンドでなくても均一に相溶した状態を作ることが可能になり、PPSと6ナイロンが相溶したフィルムを製造できるようになった。材料技術の進歩である。

 

しかし、科学的には不明の部分が多いので科学の進歩ではない。このような場合世間では怪しい技術と捉えるが、STAP細胞と異なり再現性が高い、すなわちロバストの高い技術である。この技術については、退職後の研究成果をもとに来月6日に行われる高分子学会主催のポリマーフロンティア21で報告する。招待講演者として選ばれており1時間お話しさせて頂く。

 

(注)学位論文の一部である。当時2000℃まで計測可能なTGAが無かったので、真空理工(株)のご協力をえて、自ら心臓部分を手作りした。このTGAについては特許を出願したが30年前のことで、楽しい科学者人生最後の頃である。

カテゴリー : 連載 高分子

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