2014.05/11 フローリー・ハギンズ理論(6)
科学では真理を明らかにすることが重要なゴールになるが、技術では機能実現の方法をさぐることがその使命になる。フローリー・ハギンズ理論から非相溶系となる高分子の組み合わせでもその相溶状態で得られる物性を機能として用いたいときには、その方法を幾つか用意しようとする行為は科学的にナンセンスでも技術的には意味のあることである。
32年間いろいろ考えてきたが、高分子の専門家が誰でも思いつくのが、相溶化剤を用いる方法で、これはすでに各種ポリマーアロイの開発に多く用いられている。相溶化剤を用いないという条件では、リアクティブブレンドが唯一の科学的にも成立する方法である。しかし、これは反応条件を選ぶことができるのかどうか、あるいは反応サイトが必要だという制約があり、汎用的ではない。
ここで相溶化剤を用いる方法があるので、それで機能実現するには十分と言われるかもしれないが、相溶化剤を使用できない場合も技術の現場には存在する。例えばもう過去の遺物となったが、ハロゲン化銀を用いる感材では、乳剤層に悪影響を与えない材料以外用いることができない。あるいは感材以外の他の領域全てに共通な例として特殊なケースとなるが、技術の分かっていない担当者が適当に考えた材料を設計段階で採用し、その仕事を製品化間際で引き継いだときなど新たな配合設計をすることができない、という状況になる。
そのほかに知財の制約、力学物性の制約、高次構造を相溶化剤を使用したときよりも小さくしたいなど相溶化剤を使用できないケースは意外に少なからず存在する。ゆえに非相溶系の高分子の組み合わせでも相溶系に近い状態で使用できる技術手段を用意しておくことは意味がある。
ラテックス状態で混合する方法は、コストがかかるが汎用的方法と言える。特に表面処理工程では有効な方法である。相溶化剤は時としてブリードアウトの原因物質になることもあるが、ラテックス状態で混合し作成された単膜のブリードアウトテストでは、せいぜい界面活性剤が出てくるくらいである。
但し、ラテックスで混合された材料を一般の混練機で混練してはいけない。高次構造が大きく成長することがあるからだ。高次構造のサイズが大きくなると材料物性に影響が出る。高次構造のサイズを小さくできる混練方法はカオス混合である。カオス混合を用いると極めてサイズの小さい高次構造を作り出すことができる。組み合わせによっては相溶状態を創り出すことも可能だ。
あとは特殊な方法だが、分子の立体構造に着目し、錠と鍵の関係になるような高分子の組み合わせを探るという面白いアイデアがあるが、時間や精神的余裕のあるとき以外では行わない方が良い。このアイデアの応用として分子のエントロピーに着目したプロセシング、カオス混合が高次構造を小さくする目的で使用でき、分子の緩和時間が長ければTg以下へ急速冷却することで相溶状態を維持した材料を創り出すことができる。
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