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2014.06/07 カオス混合(1)

http://www.spsj.or.jp/entry/annaidetail.asp?kaisaino=943 でカオス混合について学会から招待講演を依頼された。カオス混合はゴム会社で新入社員時代に指導社員から教えて頂いた究極の混練技術と言われているプロセシングである。本講演に推薦してくださった方に感謝しているが、講演するに当たり困った問題があった。写真会社がデータの提供を許可してくださらなかったのである。そもそも退職者の学会講演を許可する仕組を定めている会社があるのかどうかも知らないが、1時間の講演を行うに当たりキモとなるデータが無い状態で準備することになった。

 

ゴム会社時代の同期で混練のシミュレーションを担当していた横井技研の所長に発表内容を相談したところ、すなおに32年間考えてきたことを講演すれば良いではないか、とアドバイスされた。理由は未だに混練技術を完璧にシミュレートできるレベルに無いのが科学の世界の現状だからである。下手なシミュレーションやエセ科学的説明を行うよりも、現象から思い描いた技術をその時々のテーマで機能として活かしてきた経験こそ大切だというのが所長の見解だった。

 

ここでも困った問題が起きた。32年間考えてきたことを1時間にまとめる作業である。こうして32年間のサラリーマン時代の活動報告を3年以上毎朝書いてきたが、それでも書き切れていないのである。書いてはいけないことに配慮しつつ書いていてもネタ切れしない状態を1時間にまとめるのである。写真会社から生データはもらえなくてもこれまで学会発表で使用してきたデータや公開された特許があるが、それだけをまとめても1時間以上の内容となる。

 

最近のアカデミアのデータも含めてどのように1時間の講演にまとめるのか苦難の作業であった。ほぼストーリーができあがって予稿集を書き上げ、プレ資料を作成し始めたところで、山形大学にお願いしていた論文が届いた。お願いしてから無しのつぶてであったので、入手を諦めていた論文であるが、重要な内容だったのと、わざわざ送ってくださった研究者への感謝もある。再度プレの資料を作り直すことにしたが、予稿集は提出済みだったので山形大学の論文を反映できないままになった。

 

山形大学の論文はカオス混合のための論文ではないが、真実を追究している科学的論文でSTAP騒動の論文と異なり、実験も正確に行われており、「真実」の成果をどこにでも活かすことができる。すなわち科学的成果には普遍性があるのだ。ノーベル賞候補と騒がれたSTAP細胞の論文はあえなく撤回されたが、この論文はノーベル賞の対象とはならないが科学的に優れた論文である。科学的真理に軽重は無いのだ。人間がその時の都合で賞の対象を決めているだけで、科学的成果として真に必要な評価は、真理としての普遍性である。

 

また普遍性を持たせるために科学の論文には厳しい審査があるのだ。最近の捏造問題は生科学分野ばかりであるが、生科学は科学として新しい分野だから、という甘えは許されない。生化学分野のアカデミアの研究者は、錬金術時代の怪しい化学者から科学の時代にふさわしい変貌を遂げた化学者を見習うべきである。

 

発表前に間に合うように論文を送ってくださる親切な面すなわち人としての道も見習うべきで、部下に責任を押しつけるような発言をしていてはダメである。もっとも当方でもSTAPの論文騒動を読むと逃げ出したくなる状況だが、それぞれが自分の責任として受け止める姿勢が重要だ。ファーストオーサーの責任は当たり前だが、名前を連ねている以上問題が起きたときに論文全体の責任を誰もが負うのも当たり前である。(続く)

 

カテゴリー : 高分子

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