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2014.06/15 カオス混合(7)

前回の(6)では、ゴムのSP値から科学と技術の話になったが、二種類の高分子を混ぜる時の科学について、未だに解明されていない事項が多いため、30年経っても進歩していないように見える。だから、ゴム会社の友人がカオス混合装置について妙なシミュレーションの発表にしない方が良い、とアドバイスしてくれたのだろう。

 

高分子を混ぜるときには混練と呼ぶが、低分子の時には混合すると表現されている。どこから高分子というのか、という議論と同様に混合と混練の境界も曖昧である。ところが混ざり合った平衡状態の科学では、低分子についてSP値で議論し、高分子ではχで議論する。そしてχパラメーターをSP値で表現する式まで提案されている。

 

これを大学では完成された科学の理論として学ぶ。低分子の溶液論については物理化学の学生実験にテーマとして組み込まれている(40年前の話)。当時高分子の相溶については、幾つか完全に相溶する例が知られていたが、皆χパラメーターは大変小さな値だった。リアクティブブレンドは、χが大きくても相溶状態を作り出せる唯一の方法だった。

 

どのくらいの大きさまでリアクティブブレンドで相溶できるのか確認するために有機高分子と無機高分子の組み合わせについて取り組んだ。この活動報告では高純度βSiCの開発にその様子を詳しく書いたが、OCTAで計算して得られた8以上というχの値の組み合わせでもリアクティブブレンドで相溶状態を作り出すことが可能であることを見いだした。

 

もちろん簡単では無かったが、条件を工夫さえすればどんなに大きなχであってもリアクティブブレンドで高分子を相溶できることが分かったことは大きな成果だ。これがわかると、リアクティブブレンド以外の方法でも高分子の相溶を実現できるのではないかと思いたくなる。分子間相互作用のある系については当時学会発表にも登場していたので、高分子の立体的な構造で相溶を実現できる系を探すことにした(注)。

 

(注)

人生とは面白い。高純度SiCの事業化では、6年間一人で死の谷を歩き住友金属工業とJVを立ち上げることになるのだが、ストレス解消と上司の勧めもあり、ゴム会社内のあらゆるテーマの御用聞きをしていた。会社内の活動なので、他部署のテーマのお手伝いをさせられることになる。

 

電気粘性流体は、メカトロニクスの一分野として長く研究されて実用化が見えていなかったテーマだった。開発しなければいけない最も難しい機能は、ゴムの中に電気粘性流体を入れたときに、ゴムからゴムの配合物が電気粘性流体に染みだしてきて電気粘性流体の粘度を著しく上昇させる現象だ。この現象のために電気粘性流体の耐久性が悪く実用化が見えていない状態だった。

 

分析結果では、ゴムの配合物のあらゆるもの(すなわち大半)がシリコーンオイル中に抽出されていた。面白いのは、ゴムとシリコーンオイルのχパラメータは大きいのでシリコーンオイルがゴム中に拡散することはなく、ゴムの外に染みだしてくることはなかった。問題を相談されたときに思わず吹き出しそうになったことを覚えている。

 

本来相溶しないポリマーによりゴム内の配合物が抽出される現象というのは当時知られていた理論を駆使しても説明つかないはずだ(これについての仮説は後日述べる)。そのため問題を説明していたプロジェクトリーダーは、メカニズムは不明なのでその解析を行って欲しい、と依頼してきた。メカニズム解析よりも問題解決が先だろう、と言ったら、抽出メカニズムが分からないので問題解決ができない、と科学の観点で問題を捉えている悩ましい姿で回答していた。

 

抽出されても增粘しなければいいのだろう、と問うたら、そんな当たり前のことができればすでにやっている、と叱られた。あくまでも現象の機構が分からないから問題解決できない、という科学的石頭の説明である。自然科学の現象で解明された現象であれば科学的にメカニズムを解明し科学的に対策をうてばよい。

 

しかし科学で解明されていない現象では、問題解決を行うために必要な機能を考えた方が簡単である。電気粘性流体の耐久性の問題では、增粘を防ぐ機能を電気粘性流体に付与すれば良いだけである。

 

相談を受けて1日で問題解決できた。電気粘性流体の担当者は皆χやSP値を一生懸命議論していた。この問題では界面活性剤を添加すれば機能が付与されるわけで、χやSP値のことを散々考えていたところへ飛び込んできた問題なので、それでは解決できないと判断でき、すぐに頭を切り換えることができた。

 

ただこの仕事では、せっかく解決できても担当者に恨まれる結果になった。理由は界面活性剤の検討をすでに1年以上やっていて見つからなかった、という過去があったのだ。それを当方が簡単に一晩で見つけてきたものだから、問題の解答を示したときに、全員が絶句した。

 

なぜ彼らは1年以上も界面活性剤を探索して結果を出すことができなかったのか。それは科学的なアプローチを行い、否定証明に向かったためだ。実際にそのような報告書ができていた。一晩で問題解決した手法は弊社の研究開発必勝法そのもので、後日紹介する。

 

科学と技術は異なる、この点が分からなければ解決できない典型的な問題だった。それがχとSPの問題を考えていたときにでくわした。科学から技術へ頭を切り換える必要があったが、科学が怪しい、と判断していたので、あっさりと科学をすてて技術で問題解決を行った。

 

カテゴリー : 連載 高分子

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