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2014.06/18 カオス混合(9)

ポリオレフィンとポリスチレン系TPEが相溶するという「笑劇」的実験結果で、それまでのもやもやが一度に晴れた。さっそくこのポリマーアロイを押出成形してフィルムを製造したところ偏光板ができた。ポリスチレン系TPEの量を増やしたところ偏光量は大きくなり、クロスニコルで暗くなる。社内で実験結果を報告しても誰も感心を示さない。また、当方もその目的で実験を行っていなかったのでこの結果はどうでも良かった。

 

アペルの耐熱性を上げるのが当方の仕事であった。ゆえにアペルについて錠と鍵の関係になる高分子を探索したのである。分子モデルを組み立て思考実験を行ったところポリスチレンとイソプレンを組み合わせるとぴったりと寸法があったので、まず易しいところから実験を行ったのだ。科学的にはフローリー・ハギンズ理論で否定されるが、技術的にはうまくゆくと思われる組み合わせである。

 

この組み合わせで成功したならば、ポリオレフィンで同様の分子設計を行えば良いだけである。さらには、得られたTPEについてポリスチレンを水添すればアペルに相溶できるポリオレフィンとなるはずだ。問題は、組み合わせるポリスチレンのTgが82℃なので、Tgを高めることができるかどうかだ。ただしうまく錠と鍵の関係のように相容すれば側鎖基が噛み合ってTgは上がるはずである。

 

ポリスチレン系TPEの量を40wt%まで増やしたところTgは126℃から139℃まで上昇した。ただTgを上げることはできたが最初から予想したとおり複屈折の問題が現れ、この設計ではレンズとして使用できない。複屈折があると分かっていたので偏光板の実験を行ってみたわけだが、一人で作業をしている現実を甘んじて受け入れなければならない残念な結果だった。

 

しかし、χが0でなくとも混練条件を選択すれば、分子どおしがうまく絡み合ってその結果高分子が相溶するという現象を見つけたことは重要な収穫で、カオス混合実現に大きく近づいた感触を得た。

 

年が明けて、この機能を使用しアペルと組み合わせるポリオレフィンの分子設計を行って、レンズの耐熱性を上げる、という企画を提案したが、フローリー・ハギンズ理論から考えて不可能だろうとボツにされた。アペルとポリスチレン系TPEで成功しているから簡単だ、と説明しても採用されなかった。

 

ちょうど写真会社がカメラ会社と「混合」された時期であり、両社がうまく「相溶」したシナジー成果が求められていた。カメラ会社では、PPSと6ナイロン・カーボン系のコンパウンドで中間転写ベルトを開発していたがうまくいっていなかった。このPPSと6ナイロンの組み合わせバインダーはカオス混合の効果を検証するのに魅力的に写った。

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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