2014.06/20 カオス混合(11)
昨日東工大の研究において二枚のガラス円盤に挟まれたPPSと4,6ナイロンでカオス混合が起きているかどうか怪しい、と10年前の感想を書いたが、山形大学の最近の研究論文から推測すると剪断速度の速い円周付近では、カオス状態になっている可能性がある。この山形大学の研究論文とはカオス混合(1)で紹介した親切な研究者が送ってくださった論文のことである。
10年ほど前に東工大の論文を読んだときにはカオス混合が起きているのかどうか疑い、相溶ではなく混和で透明になっているのか、とも考えたりしていたが、O先生との議論の過程で相溶が起きている、と確信し、PPSと6ナイロンも急速な伸張を行えば相溶が進行すると考えた。
もし、山形大学の論文が10年前に存在していたならば、他の人も同様のアイデアを持ったかもしれない。この論文が無かったおかげで当方だけがアイデアを思いつくことができた。科学情報の少ない中で自然現象から人間に便利な機能を抽出できる能力は、技術者の不断の努力と成功体験で培われる。
科学者は目の前の現象から真理を導き出すために研究し論文としてまとめるのが仕事だが、技術者は自然現象から機能を取り出しロバストを上げて実用化するのが仕事である。それぞれの過程でそれぞれの能力が磨かれてゆく。山形大学では、フィルムの多層押出で発生する現象からこの論文の研究が行われた。
この論文には、キャピラリーの壁面にポリマーAをコーティングしておいて、その中にポリマーAあるいはポリマーBを溶融状態で流した結果が考察されている。するとポリマーAとポリマーAとの組み合わせ界面では生じないスリップが、ポリマーAとポリマーB の界面で起きるという。
この実験は、ABA型の3層で構成された積層フィルムの押出成形における界面の挙動を考察した研究の中で行われた一部で、異相積層フィルムの押出でもスリップが発生しているそうだ。この研究結果から、東工大の二枚の円盤の実験における4,6ナイロンの島相とPPSの界面でも同様に、スリップが発生している可能性が高い。
スリップが起きた瞬間には、相対的に4,6ナイロン相の界面のある位置とPPSのある位置とがずれて、それまで等速に剪断力を受け残っていた規則性が、一気にカオス状態になる様子を想像できる。すなわち、ガラス円盤の外周に近い領域では剪断速度が速くなると同時にスリップも頻繁に起き、中心部とは異なった混合状態になっている可能性がある。
この機能を実用化したプラントが7年近く稼働している。
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