2014.07/06 ケミカルアタックの意味について(1)
ケミカルアタックという現象は、応力がかかっている樹脂に化学物質が付着して破壊に至る現象である、と思っていた。仮に応力がかかっていなくても、樹脂には射出成形時の内部歪みが存在するので化学物質が付着するとクラックが発生することがある。
この現象に初めて出会ったのは、小学校の低学年の時に水陸両用のスーパーカーのプラモデルで遊んでいたときだ。これは、サンダーバードの前に放送された人形劇「スーパーカー」に登場した車がモデルになっていた。
お小遣いを全て使い購入したプラモデルは、完成からわずか一ヶ月でギアボックスを固定していたボスが壊れ使い物にならなくなった。ギアボックスには付属していたグリースをたっぷり塗っていた。破壊したボスは少し変色していたのでグリースでプラスチックが腐ったのではないか(注1)、と疑問に思った。その後いくつかプラモデルを作ったが、例え異音がしてもグリースを塗るのをやめた。
中学校に進級し化学クラブに入部した。そこで真っ先に実験を行ったのはケミカルアタックの実験である。当時からケミカルアタックという言葉は存在した。また金原現象という言葉やパーコレーションという言葉も覚えた。そして大人になるにつれこれらの言葉がトラッキング現象や混合則という言葉との相違で悩み仕事に活かされていった。
ケミカルアタックは退職前6年間によく接触した言葉である。電子写真の複合機におけるボス割れでケミカルアタックという品質故障が多いのを疑問に思った。そしてこれが樹脂メーカーの責任逃れに便利な言葉であることをある一流メーカーの役員も含めた品質問題の議論の場所で知った。
一流企業の看板を掲げながら、現場の品質管理も不十分で「ス」の入ったペレットを納入し、それが原因でボス割れが起きていてもケミカルアタックと主張した凄い企業である。可能な限りのケミカルアタックを否定するデータを揃えても、ケミカルアタックでないことを認めなかった。挙げ句の果てはケミカルアタックを知らないのか、というところまで発展した。日本の樹脂メーカーの信用も地に落ちた。
また、ケミカルアタックという品質故障が正体不明の場合に樹脂メーカーが用いる便利な技術用語であることもこの時覚えた。子供の頃に覚えた意味では狭く、一流樹脂メーカーの技術者に馬鹿にされた(注2)。言葉は拡張されてゆくものである(続く)。
(注1)警察官であった亡父が泣いている息子を慰めるために言った言葉である。今から考えれば、科学者ではなかった亡父の冴えた推理である、と思う。
(注2)これは実話で、すでにこの欄でも過去に紹介している。中国の現場で二軸混練機のシリンダー温度が管理されず40℃も高い温度で混練され、「ス」の入ったペレットが生産されていた。証拠写真や正常に生産されたときのペレットとの強度比較、DSC、電子顕微鏡写真、IR、ガスクロなど会社で活用できるデータを使い、ペレットの異常を証明したつもりであったがケミカルアタックの一言で片付けられた。個人的には訴訟まで起こしたかったが、企業間の問題であり、結局ケミカルアタックという言葉で幕が引かれた。フロッピーディスクを壊された事件同様にサラリーマン時代の悔しい思い出の一つである。樹脂メーカーのこのような姿勢に成形メーカーは注意されたほうがよい。ただし、誠意が無いのは一部の樹脂メーカーだと思う。
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