2014.07/22 技術者と職人(2)
バブルがはじけたときにホワイトカラーのリストラが急激に進んだ。しかしこの時は主に事務部門であり、実用レベルまで技術が進歩したコンピューターの普及がその部門のリストラを加速した。しかし技術開発部門では事務処理担当者の数が減らされただけで、職人のリストラまで行われなかった。
バブル崩壊から20年以上経過し、日本のメーカーにとって新たな成長分野が見えないまま現代のIT成熟時代に至った。失われた10年から新たな成長分野を探索した10年も過ぎ、ソフト化した技術社会が出現した。新技術が市場をリードする時代は過去の事例となり、顧客とともに市場で価値(注)を創造してゆく時代になった。
ソフト化した技術社会では、企画開発力のある技術者が重要であり、過去のルーチン化した開発業務をこなす技術者は「高度な業務を扱うことが専業となる」職人になっていった。これは長期間の修業により高度な技能を身につけた過去の職人と異なり、長い科学教育で身につけた科学知識を活用して高性能な装置を使うことのできる新時代の職人である。このような職人は、過去の職人のような高度なスキルを持ってアウトプットを生産しているのではなく、高度な知識が無ければ扱えない機械の助けを借りてアウトプットを出しているのである。
かつての開発現場ではこのような職人でも立派な技術者として扱われてきたが、ソフト化した技術社会では、高性能な装置にもコンピューターが搭載され、「高度な知識が無くても」一定の手順に従い装置を動かせば、装置にあらかじめ組み込まれたデータベースで判断まで行い、自動でアウトプットとしてまとめてくれる。
装置だけでなく、日々の業務も蓄積されたデータベースが学校で習って身につけた知識を陳腐化し、高度な教育を受けていない職人との差を縮めてしまった。すなわち日々大量に創出されるデータとそれを加工するサービスがあふれているソフト化した社会が学校教育の科学知識をあたかも不要とし、知識労働者で主に科学的知識を活用してきた技術者を職人に追いやってしまった。
(注)それまで技術者は機械装置の機能を実現することだけを考えればよかったが、現在は市場で要求される価値を実現する機能を考えなければいけなくなった。すなわち技術者はハードだけでなくソフトまでも考えなければいけない時代である。
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