2014.07/25 技術の伝承結果
せっかくゴムの混練技術を伝承されたのに、ゴム会社でコンパウンディングの事業企画を行う機会は無かった。写真会社に転職し二回目のリストラを受けたときに、ポリオレフィン樹脂の改質や、中間転写ベルト、複写機用環境対応樹脂の開発でその技術は生きた。
20年以上使わなかった技術だが、錆びてはいなかった。科学よりも先行していた技術を伝承されたので、20年間に進んだ高分子科学の情報を基に見直すことで、新しい技術も生み出すことができた。まさに温故知新である。
光学用ポリオレフィン樹脂にポリスチレン系TPEを相溶させて透明な樹脂を開発することに成功した。この樹脂は驚くべきことに、ポリスチレン系TPEの量を増加させるとその樹脂のTgが増加する。また、延伸すれば偏光板になった。おそらく広視野角フィルムも作ることができたと思うが、残念ながらこの企画をやめて中間転写ベルトの開発を担当することにした。
中間転写ベルトのテーマは、商品の発売が約1年後であったが、パーコレーションの制御が全然できていない状況の厳しいテーマだった。外部のコンパウンドメーカーが、コンパウンドには責任が無く、写真会社の成形技術に問題がある、と説明しており、担当者までそのような認識だった。
コンパウンディング技術の観点からコンパウンドメーカーにアイデアを提供しても素人の意見として扱われ受け入れてもらえない。社内でもコンパウンドの内製化はリスクが高い点と、コンパウンドは外部購入するという方針が決まっており、開発予算がつかない問題などから反対された。
仕方がないから、技能者1名と転職者1名でプロジェクトを結成し、中古機でコンパウンド工場を子会社に建設した。根津にある中小企業のおかげで工場は無事立ち上がり、商品化時期に影響を与えず、コンパウンドの内製化を実現することができた。
早期退職をしようと思っていたら、低コストの環境対応樹脂が必要との声があり、退職時期を1年延ばし、最後のご奉公に再生PET樹脂を開発した。30年前の新入社員時代に伝承された技術が退職前の7年間の仕事で価値ある成果を出してくれた。ただその成果は、ゴム会社へ貢献したのではなく写真会社に対して貢献した。このように身につけた技術というものは時代や会社を越えて可搬性がある。
芸が身を助け、という言葉があるが、技術はリストラ激しい時代にその身を助けてくれる。ただ、退職時期を1年延ばした結果、最終出社日が東日本大震災と重なり、せっかく周囲が準備してくれた最終講演会と送別会が吹っ飛んだ。マジメに勤務したサラリーマンなら誰でも1度味わうことのできる定年退職祝いを地震でつぶされたが、帰宅難民として会社に宿泊できるご褒美をもらった。
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