2014.09/22 高分子の難燃化技術(6)
昨日からの続きであるが、ホスファゼンが市販されていなかったので使うことができず、企画した難燃化技術を実用化するためには、リン酸エステル系難燃剤を使いこなさなければならない。
駆け出しの技術者の浅はかさで、企画書を提出した時にはホスファゼンで実用化できると簡単に考えていた。また、課内会議でもホスファゼンに関する質問は出たが、コスト等については、新入社員に質問しても、という雰囲気だった。課長も企画内容にニコニコ笑顔だった。
企画は、今でいうところのイントメッセント系の難燃化技術で、当時そのような言葉が無く、我流で炭化促進型難燃化システムと名付けていた。1980年頃はLOIの規格やUL規格が普及し始めたころで、コーンカロリメータが登場したのはこの5年後の頃である。
ハロゲンと三酸化アンチモンによる気相で働く難燃化手法や、溶融型の難燃化手法、変わり種としてゴム会社が開発した,高分子材料が餅のように膨らみ炎から逃れるようにした難燃化手法もあった。
これは当時の建築基準の評価手法を研究していて偶然発見された技術で、やや胡散臭い手法である。すなわち試験法の特徴の裏をかき、材料を変形させて試験炎から材料が逃げるように設計した技術である。
他社もすぐに真似をしたので日本全国火災時に餅のように膨らむ天井材が普及した。その結果、実火災では防火機能を発揮できず、社会問題となった。すぐに通産省で難燃化基準の見直しが行われた。
ゴム会社に通産省から建築研究所のお手伝いをするように要請があり、新しい建築基準作成の国のお手伝いも担当した。今ならばブラック企業となるような職場環境と仕事の状況であり、人生で一番忙しい時期だったが、周囲からの期待と仕事が直接会社と社会への貢献につながっている実感があったので、この難燃化技術を研究していた時がサラリーマンとして最も幸せだったのかもしれない。
企画した技術について、ホスファゼンを用いて機能確認したところ、狙い通りの結果になったが、始末書騒ぎになり、あげくの果てはリン酸エステル系で実現せよとの指示。どのように始末書を書いたらよいのか、「人に聞けない書類の書き方」という本を購入し、研究するとともに、燃焼時の高温度で揮発する市販のリン酸エステルの活用方法に悩まなければならなかった。
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