2014.09/28 高分子の難燃化技術(12)
硼酸エステルとリン酸エステルとを組み合わせることで、オルソリン酸のユニットをホウ素で固定化できた。この考え方を発展させると、ホウ素でなくてもAlでもSiでも良い、というアイデアが浮かんでくる。
軟質ポリウレタンフォームの次に高防火性フェノール樹脂天井材のテーマを担当した。この天井材の開発でさっそく試してみたら、目標仮説をすべて実現できた。さらにケイ酸エステルであるエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせは、高純度SiCの前駆体である。
すなわち高純度SiCの前駆体のアイデアはこの時生まれているが、一度諦めたアイデアなのである。高防火性フェノール樹脂の天井材開発で、エチルシリケートとリン酸エステルの組み合わせを検討した時に、エチルシリケートがうまくフェノール樹脂に分散しなかったのである。
それだけでなくレゾール型フェノール樹脂を用いたときには酸触媒を使用するのでエチルシリケートが加水分解してうまくゆかない。プロジェクトメンバーから諦めるように言われた。しかし、シリカを分子状態でフェノール樹脂に分散したかったので、水ガラスからケイ酸を抽出してそれを分散することにした。
これはうまくいったが、始末書が頭に浮かんだ。水ガラスからケイ酸を抽出するときに、THFやジオキサンを使用し、コストが高くなるからである。とりあえずモデル実験と称して実験を進めていたら、シリカゾル粒子程度の大きさでもうまくリン酸ユニットを補足できることがわかった。
すなわちシリカゾル粒子でも凝集しないようにフェノール樹脂に分散すれば、ナノオーダーなので燃焼時にはリン酸ユニットをうまく補足してくれる。さらに都合の良いことに線形破壊力学の教えるところであるが、ナノオーダーの超微粒子がマトリックスに分散するとそのマトリックスの靱性を大きく改善できる。
シリカゾルを凝集すること無くフェノール樹脂に分散する技術は、燃焼前のマトリックスの靱性を上げただけで無く、形成されたチャーの靱性も向上し、さらに簡易耐火試験においてひび割れも起こさないという効果も示した。こうしてシリカゾルとリン酸エステルを分散したフェノール樹脂天井材は実用化された。
pagetop