2014.10/06 科学では説明できない出来事
多くの犠牲者を出した御嶽山の噴火は予知できなかったという。今どき信じられない話だが、地球物理学の進歩がその程度なのだろう。一方今回の噴火については、なぜ休日に起きなければいけなかったのか、という疑問が残る。確率として2/7という低率である。
かつて無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学中に不思議な出来事があった。ゴム会社から留学して半年後に昇進試験があった。昇進試験は論文形式であり、新規事業について答える問題だった。
社長方針として、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスを新事業の三本の柱として育てる戦略が出されていたので、半導体用高純度SiCの事業について、独自の新規製造方法を開発し、市場参入したいという解答を書いた。答案は0点だったそうだ(しかし、当時始めた事業は今でも続いている)。
当時留学先の上司にあたる総合研究官I先生がその結果を心配されて、1週間だけ無機材質研究所で自由に研究して良い、と許可をくださった。会社から推薦されて留学してきたエリートが昇進試験に落ちたのである。大変心配してくださったことに感謝し落ち込んでいた気分も少し晴れ、留学を終えたら研究しようと思っていた高分子プリカーサー法による高純度SiCの新合成法を1週間で完成させることにした。
この新合成法は、高分子プリカーサーの出来不出来により、生成するSiCの純度が変化する、と予想されていた。しかし、その後の研究でSiC化の条件の寄与も30%程度あることが分かったが、当時はそのような情報は、特許にも論文にも書かれておらず公知では無かった。
1週間という短い研究期間ではSiC化の条件まで検討する時間は無く、論文に書かれた典型的な条件で電気炉の温調器のプログラムを組んで運転した。実験中は、電気炉の前で八百万の神にお祈りをしていたら、突然電気炉が暴走した。あわてて安全スイッチを切ったところ温度が下がり始めたので、あわててメインスイッチを入れたがまた少し設定温度よりも上がったため切断し、実験を終えた。
独特な温度パターンでプリカーサーがSiC化されたわけだが、翌日電気炉の中を見て驚いた。真黄色のSiCが得られていたのである。慌ててI先生をお呼びしたところI先生も一発で高純度SiCができたことを驚かれ、プリカーサー法の威力に感心された。
プリカーサーには、化学量論比でシリカと炭素が含まれていたが、その後SiC化の反応条件を検討したところ、この時の条件がベストであった。この時得られた高純度SiCの粉末を社長にお見せし、2億4千万円の先行投資を頂いたのだが、何故電気炉が暴走したのか、科学的に説明できていない。
20世紀に科学は著しく進歩した。しかし、未だに科学では説明できない現象が存在する。その中で人類は生活している、という謙虚さを忘れてはいけないのだろう。かつて民主党時代にいつ起きるのか分からないことにお金を使うより、という発言(注)があったらしい。
しかし、その様な状態だからお金をかけて研究しなければいけない、という発想にはならないのだろうか。原子力発電の再開の方向でもあるので地球物理学の研究に力をいれても良いように思う。この問題は、www.miragiken.com でも取り上げてみたい。
(注)火山の観測に使われた予算が減らされたことについて、民主党時代の仕分けが話題になっている。発言の趣旨は異なる、という言い訳もされているようだが、有名な「二番ではダメですか」という科学技術行政に対する無知な発言もあったので、疑われても仕方がないだろう。政治家は官僚よりも勉強できる立場にあるのだから、科学についてもよく勉強して欲しい。
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