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2014.10/29 技術の伝承(10)

1980年代の材料科学の分野でパーコレーション転移はポピュラーな現象ではなかった。混合則という現象を記述する理論が存在し、これで材料の電気抵抗や力学物性の変化が議論されていた。今から50年以上前に微粒子の分散で観察されるクラスターについて数学界ではパーコレーション転移が議論されていたのだがその考え方が材料分野まで普及していなかったのだ。

 

その結果特許にもパーコレーション転移という現象が記載されていなかった。これは科学と技術を分けて認識していない学術の責任と思った。パーコレーション転移は機能を設計するために重要である。しかし現象を述べるためには混合則で十分である。この結果パーコレーション転移という数学界における学術の成果が技術を考える上で重要であっても現象を記述する理論が既に存在した材料科学分野で普及しなかったためと思われる。(但し材料で観察される現象を学術で議論する場合にもパーコレーション転移は使えるし、本当はこの理論が混合則よりも好ましいと感じている)

 

たまたま当方は学生時代に数学関係の書籍が好きでパーコレーション転移について学んでいた。また、戦後のヤミ市で父が購入したというコーヒーの古いパーコレーターが当時も我が家で使用されていたので、パーコレーションという現象の語源として結びつき、トリビアの泉のようなムダ知識と思っていたが、15年後その知識が役だった。

 

知識に無駄な知識は無い。ただそれを活かす知恵が働かないだけだ。知恵を働かせるためには動機が必要だ。チャンスが訪れるまでどんなムダ知識でも頭に貯めておく事が重要である。いつか知識は役立つ。無駄な知識が頭に貯まって活かされないのは知恵とチャンスが無いからだ。

 

転職した会社で面接時に金属酸化物粒子を用いた帯電防止層が重要だと聞いたときにすぐにパーコレーション転移がひらめいた。使う機会があるかもしれないと思い、知恵を働かせるためにパーコレーション転移のシミュレーションソフトをすぐに作成し始めた。パーコレーション転移という機能を検証するためには現象に影響を及ぼす外乱をコントロールしなければいけないのでコンピューター計算が便利だと思った。

 

このパーコレーション転移のソフトを使い、特公昭35-6616の現象や実験室で収集されるデータを次々と検証した。そして2nm前後である酸化スズゾルの一次粒子の体積固有抵抗が導電性領域の値であることを確信した。またパーコレーションという現象を精度良く検出するために薄膜をインピーダンスで評価できないか研究をはじめた。これらは当時学術論文には存在しなかった研究である。しかし技術開発にはパーコレーション転移を精度良く検出するために重要な研究なので担当外ではあったがヤミ研として進めた。

カテゴリー : 一般

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