2014.10/31 技術の伝承(12)
技術は生産現場で生きている、という人がいる。また、無駄な技術は消え去る、とまで言いきる人もいる。しかし、特公昭35-6616に書かれた写真会社にとって重要な技術が痕跡も無く消えていた状況をこれらの言葉では説明できない。
酸化スズゾルを用いた帯電防止層はその後熱現像感材などデジタル分野で活用される写真フィルムで重要な技術として使われたが、当方がリストラされた状況から察して高い評価を社内で受けていないのだろう。
また印刷学会で学会賞を受けた製品にもこの技術が採用され、その受賞理由にも高度な帯電防止技術で色ずれの置きにくい技術と書かれていたのに帯電防止層の開発部門の担当者は誰一人そこに名前が無かった。
さらに印刷学会の学会賞の受賞も知らされていなかった。たまたま学会賞受賞式が行われた日の講演会で帯電防止の発表をしてくれ、と他部門の方から言われたのでのこのこと会場に出かけて受賞の状況を知った。
重要な技術が伝承されてゆくかどうかは、技術を大切にする風土があるかどうかということだろう。ある日学会の委員会でライバル会社の方から日本化学工業協会で技術特別賞が新設されるからそこへ酸化スズゾルの技術を出してみてはどうか、と言われた。
社内に戻り、技術担当役員に相談したところ推薦されることになり、無事第一回の技術特別賞を受賞することができた。ライバル会社の方は公開された特許や印刷学会賞をご存じで、酸化スズゾルの技術を高く評価してくださっていた。それを知らせてくださったことに感謝すると同時にライバル会社の方だったので感動も大きかった。
類似技術が存在するときに、技術の価値評価は難しいのかもしれない。科学であれば最初に真理を見つけただけで高い評価が得られる。しかし技術は機能が正しく発揮されなければならないので完成までに時間がかかる。その機能が世界で初めてならば科学同様に技術は簡単に評価されるが世界で初めてでは無いときにその評価は難しくなる。
酸化スズゾルの帯電防止層はパーコレーション転移を制御し18%という転移に必要な理論量で機能を安定に実現している。その結果、微粒子が分散しているにも関わらず膜の強度も高く設計できた。その材料設計のためにインピーダンス法でパーコレーション転移を評価する世界で初めての技術も開発している。酸化スズゾルを用いた帯電防止層の技術は幾つかの要素技術を組み合わせ、昭和35年に特許で公開されてから誰も実現できなかった技術を製品化した温故知新の成果である。
カテゴリー : 一般
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