2014.12/01 企業の科学的問題解決プロセスにおける問題(1)
科学的問題解決プロセスにおいて成功するためには、そのプロセスの過程で現れる現象がただ一つの真理で支配されているという条件が必要である。ゆえに科学的問題解決プロセスでは、仮説が重要となり、仮説に基づき一つの真理を検証できるように管理された実験条件で問題解決プロセスを遂行する必要がある。
ところが企業の製品開発において一つの真理を追究できるという理想的な実験モデルを設定することが多くの場合に難しい。誤差の問題以外に市場で想定されるノイズをモデル化したときの妥当性を検討しなければいけないという煩わしさも生じたりする。そこで手を抜けば複数の真理を内包した実験モデルになり、科学的な実験はもはや困難になる。
ある製品開発でPPSと6ナイロンを相容させる必要に迫られた。現代の科学でこれはナンセンスな目標である。しかし、製品開発で得られたデータの中には材料のTgが一つしか現れず異常に下がったサンプルが存在していることに気がついた。この「発見」をデータのばらつきと見るのか、偶然科学に反する現象が起きた、と考えるのか議論になった。
分析グループに解析をお願いしたら、偶然が重なった測定ミスという結論を出してきた。そして本来は相分離している、という分析グループで実施されたサンプルを用いた電子顕微鏡写真まで送ってきた。レポートでは見事な否定証明が展開されていた。
科学に反する現象が起きた場合に否定証明という方法は結論を出すのに最も安直な方法である。しかし幸運だったのは、否定されたとしてもPPSと6ナイロンが相容しない限り問題解決できない状態まで追い込まれていたことだ。
グループリーダーの立場でコーポレートの研究所が出した結論を無視し、カオス混合の開発を指示した。ところがマネージャーから反対され、従来技術の範囲でできないことを証明しテーマを終了しようということになった。おそらく大抵の企業でもこのような流れになると思われる。
当方は、粋のいい退職間近の職人と、活きの良い若手を抜擢し、3人でカオス混合の開発を行い、残りのメンバー20名をマネージャーに任せ否定証明の仕事をやらせた。結果はすぐに出た。カオス混合で非科学的な現象を引き起こすことができ無事製品開発に成功したのだ。
pagetop