2014.12/09 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(5)
昨日の話をフィルムについてもう少し細かく書く。フィルムの表面温度が雰囲気温度と同じになってもフィルムの中心部分は低いままだ。
表面から少しづつ熱としてエネルギーがフィルムの中心部分へ送られてゆき、やがてフィルム全体が雰囲気からもらったエネルギーの均一な状態になったとする。ただし、これはフィルムでエネルギー消費がまったく行われない場合である。
実際のフィルムでは、エネルギーが加えられるとまず自由体積部分がそのエネルギーに応じた変化をする。このとき、雰囲気がTg以下の場合には、非晶部分の大半が凍結されているので動くことができず、自由体積部分で側鎖基がぴくぴくと振動しながら凍結されていく。すなわちもらったエネルギーに相当する安定な密度へと変化してゆく。
このようにTg以下のアニール処理では、高分子の自由体積部分のパッキングが進むだけである。
これがTg以上のアニールになると、少し複雑なことが起きてくる。雰囲気からもらったエネルギーで凍結されていた非晶部分の内、そのエネルギーで解凍される部分も自由体積部分と同様にぴくぴくと動き出すのである。
ここでエネルギーが大変大きい場合には、凍結されていた非晶部分の大半が動き、その結果フィルムはしわしわになる。結晶部分も溶解しうるエネルギーが与えられたなら、フィルムはしわしわを通り過ぎてドロドロになる。
Tg以上でほどよいエネルギーが与えられると、凍結されていた非晶部分の一部と自由体積部分の分子運動を可能とし、パッキングが急速に進行する。ただし全ての非晶部分が解凍されるわけではないのでフィルムの形状は変化せずしわしわにならない。
これらの物理変化はすべて吸熱反応なので、フィルムの表面部分も含めフィルム全体のエネルギー分布は不均一になる。この状態で温度計測を行うと、表面部分と内部とは100ミクロンのフィルムで1℃前後の違いを生じる。実際はもっと温度分布があるだろうが、現在の技術ではその温度計測を実務の中で行うには膨大な費用が発生する。
ここで科学的に厳密に計測しろ、という管理者が稀にいるのが今の日本の状態である。転職した会社ではこのような類似の状況をしばしば見てきた。
ゴム会社では12年間で2人の管理者という極めて少ない人数だった。科学的厳密さにこだわる、ある意味科学のパラノイアがゴム会社で少なかったことに未来の光を見たが、これは企業により状況が異なるだろう。
科学的厳密性にこだわる管理者から指示を受けた担当者は、少ない予算の中で適当な回答を実験で出し説明することになる。100ミクロンで1℃という値は、上司から指示を受け、サラリーマンとしてしかたなく部下へ適当な実験方法を指導して出した値である。
技術ではロバストの高い機能を実現するのが目標であり、科学的厳密性が目標ではないが、これを理解していない研究職が本来人間の自由な活動で行えるはずのダイナミックな技術開発をだめにしている。
一時はやったコーチングが人気を失ったのも単なる一つの哲学にしかすぎない科学にとらわれすぎたことも一つの理由と思う。ヒューマンプロセスを取り入れるようにしておれば、コーチングも円滑に行われ技術の伝承もうまく行われると思う。
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