2014.12/14 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(10)
正しく粘弾性特性を評価すると、Tg以下で処理した場合とTg以上の熱処理では、全く異なる機構で非晶部分が変化するらしいことが推定された。ライバル会社の技術は一応学会でも発表されそれ相応の評価を受けていたが、科学的に不十分なところが存在したのだ。
ちなみにTg以上では、拘束されていた分子鎖の運動性が解放されるので、結晶のパッキングが進む。だからTg以上の温度で長時間放置するとフィルムがしわしわになる。
しかし、運動性が解放されたからといって、すぐにパッキングが進むわけでは無く、大変微小なタイムラグが存在し、そこをうまく過ぎれば、しわしわにならない。
文章で書くと簡単だが、これを技術で実現しようとすると大変なことであると同時に、短時間アニールが本当に短時間勝負の技術であることが工場実験の成果として示された。
基本機能をクリープでとっていてはうまくいかないこともこの結晶のパッキング機構から理解できた。工場実験では容積が大変大きなところの実験になったので物性は大きく変化した。その結果、様々な物性のPENフィルムが得られた。
ばらつきが最少となる条件、すなわちSN比が最大になる条件がゴールだったが、このゴールを達成していないサンプルにも貴重な情報が隠されていた。それらの情報を丁寧に集め整理していった。この作業で目に見えない高分子鎖のTg付近の動きがあたかも見えるように思えてきた。
実験は仮説を立てて行え、と一般に言われる。またアカデミアでも学生の指導にこのフレーズを使われる先生も多いと思うが、落ちこぼれ学生のたてた仮説から得られるはずれた実験データについて真摯な指導を行う先生は少ない、と聞いている。
しかし実験データには科学で未解明の現象が隠されていることに気がついて頂きたい。時折実験の失敗から大成功が生まれるのはこのためである。これは凡才が科学で活躍するためのコツでもある。www.miragiken.com に登場する落ちこぼれの文子嬢もそのうちびっくりする発明をすることになる。
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