2015.01/03 技術の伝承とヒューマンプロセス
技術の伝承の重要性は、社会人になってから幾度となく聞かされた。しかし、その重要性が叫ばれながらもなかなかうまくゆかないようだ。写真会社で出願された特公昭35-6616特許(注)を掘り起し、パーコレーション転移の制御技術とその評価技術を20数年前開発した。
日本化学工業協会から賞を頂いたこの技術は、技術の伝承がまったくできていなかった典型的な例だ。コンピューターによるシミュレーションと帯電現象の科学的解明に努力し古い特許を見直したところ、重要な技術を発見できた。
科学の問題解決プロセスは真理を追究しそれを明らかにするのがゴールであるが、技術の問題解決プロセスは自然現象を活用できるように、それをいかにうまく機能させるか、がゴールになる。すべての自然現象が科学で解明されているわけではないので、技術ではしばしばその機能実現方法がブラックボックスになってしまう場合がある。
これを科学の力でリヴェールする技術開発をリバースエンジニアリングというが、企業の技術開発で採用されているその過程で科学の力不足をしばしば感じてきた。その分野の有識者に尋ねても不明だったので明らかに科学の力不足である。
科学で解明できない技術では巧みなヒューマンプロセスの成果によるものが多い。ノーベール賞を受賞したiPS細胞を作りだすヤマナカファクターは、テレビ放映されるまでその発見方法がブラックボックス化されていた。
テレビで放映されたその方法は、科学の常識から外れた24個の遺伝子を細胞に取り込ませようとした大胆な実験とあみだくじと同様の消去法によるヒューマンプロセスだった。
科学は知の体系であり、誰でも利用できる公開された権威ある情報も豊富だ。しかし技術については特許と製品、リタイアした技術者からその情報を得る以外に合法的な方法は無い。中には職人により生み出された技術もあり、このような属人的要素が強い技術ではその開発した本人が技術そのものとなる。
科学で実現された技術では厳密なロジックで真理に到達でき自然現象の活用方法をリベールできるが、ヒューマンプロセスによる技術では先端の科学的成果を集めてもうまくゆかない。そこで技術の伝承が重要になってくる。
(注)絶縁体である酸化第二錫を写真フィルムの帯電防止層として活用した技術。酸化第二錫にインジウムをドープすると高い導電性を持つようになる。これは透明導電膜ITOとして有名で、この特許が出願された頃から研究が始まっている。特許では酸化第二錫ゾルとして塗布液を作成しているが、これはナノオーダーの超微粒子が金魚のウンコのようにつながった繊維状の物質が分散したコロイド溶液で、この溶液に高分子を分散してPETフィルムに塗布すると光学的に無色透明な薄膜になる。しかしパーコレーション転移が起きにくく40vol%以上添加しても導電性が出ないのでインチキ特許とみられていた。ゴム会社から写真会社に転職した時にライバル特許を過去にさかのぼり整理しこの特許を見つけたが、ライバル会社の最初の特許ではこの特許を否定し結晶性酸化スズが良いというひどい特許が出願されていた。実は1980年代のセラミックスフィーバーで結晶性酸化スズは絶縁体であることが証明され、その酸素欠陥が増えてきて非晶質になると半導体になる科学的実験結果が報告されている。インジウムをドープすると正孔が増えるので導電性になる。特公昭35-6616の実施例に書かれた酸化スズゾルを科学的に分析すると、わずかに構造水を含んだ非晶質酸化スズが生成しており、1000Ω程度の導電性物質であることが都立大との産学連携研究でわかった。この程度の導電性があれば、パーコレーション転移シミュレーションで10の8乗Ω程度の薄膜を製造できることが示され、分散しやすいために転移が起きにくいゾルをいかに転移させるかと言う問題になる。転移を制御する因子を探すためにわずかなクラスター生成を評価できる評価技術が必要と考え福井大学客員教授時代に青木幸一教授と開発し、その評価技術を用いてコンビナトリアルケミストリーの手法で18vol%程度で転移を生じる条件を見出した。
カテゴリー : 一般
pagetop