2015.01/23 混練プロセス(18)
リアクティブブレンドでは分子設計が重要である。シリコーンLIMSについて信越シリコーンやモメンティブ、東レダウコーニングの3社はそれぞれ異なったコンセプトで材料設計を行っている。恐らく特許の権利関係からこのようになったと思われるが、二官能のオリゴマーと架橋剤で構成された信越シリコーンの設計方針が最も素直なように思われる。そして電子写真分野における信越シリコーンのシェアは高い。
このLIMSの問題は、液状物質を均一な状態に混合できても、その後の鎖が伸びる反応と架橋する反応とが均一に生じるかどうか保障されていない点である。例えばローラ部品のような場合には長手方向に温度ムラができる。この点を理解していない人がいる。あるいは大学一年で習う物理化学の基礎の基礎を忘れてしまっている、と言った方が良いかもしれない。バーローやムーアが書いた物理化学の教科書でも数行しか触れていないから、これを焼きなおした日本人の著者による物理化学の教科書では欠落しているかもしれない。
ちなみにA教授の書かれた物理化学の教科書には、この大事な話が一言も書かれていない。本屋で立ち読みした程度だから欄外にでも書かれているかもしれないが、バーローやムーアのように本文にきちんと書いておくべき内容である。もしこの内容を軽く扱っている物理化学の教科書ならばゴミ箱に捨てたほうが良い。(その前に買わないほうが良い)
その内容を正しく知っていないと、研究開発の実務を行った時に問題そのものをわからなくする程度の重要な内容だからだ。フローリーハギンズの理論は知らなくても不自由しないが、この内容を知らないと目の前の現象を理解することもできない場合がある。また、この内容を知らないことについて恥ずかしいと思わない人が多い現実もあり、ますます問題解決を難しくする。
さて、なぜ均一な反応を実現することが難しいのか。それは反応によりエネルギー変化が生じるからで、そのエネルギー量を計測する手段は、一般には温度になるからである。エネルギーは容量因子であり温度は強度因子であることはまともな物理化学の教科書には最初に出てくる。これは実験を行う時に忘れてはいけないことで、大学に入って初めて習う重要な事項だ。また実務でもよく遭遇する基礎事項である。
大学で習ったことは実務で役に立たない、と言う不遜な技術者もいるがこれは大学で初めて習う事柄である。そして技術者が現場で現象を眺める時にいつも注意しなければいけない基礎の基礎事項である。この基礎事項を知らずに現象を眺めていると目の前の真の問題を見つけることができなくなる。
大学で習ったことが実務で役立たないという人がいるが、役立てる力量が無いのが問題で、当方は大学院までの6年間で習った事柄のほとんどを32年間に活用した。授業を聞いていた時には無関係と思っていた図学でもプロセス開発を行う時に最低限の図面を書く必要に迫られる。最初わらびや軍配などが出てきて難しいと思われた量子力学でも研究開発で遭遇する問題を基本機能まで分解する時に重要だ。電池開発をしない限り電気化学など不要と思っていたらゴム会社でLi二次電池を少し担当した。
学生時代に反応速度論などあまり科学的な内容ではなさそうだ、と軽く見ていたら追試を受ける羽目になった。100点を取らないと単位をくれないと言われ、何度も追試を受けることになった。教養部の必須科目なので落とすと留年する。当初一人だけ追試を受けているので、いじめではないかとも思ったが、丁寧に毎回問題が違っている。通常の追試ではありえないことだ。問題を考える先生も大変だ、と思っていたら種本があった。英文しかなかったその種本を海賊版で読み、半年後ようやく100点を取ることができた。
半期の反応速度論の授業を一年かけて受講したことになる。やる気に燃えた若い先生の授業は大変だ。おかげで反応速度論は得意科目になり学位論文の半分はシリカ還元法の反応速度論である。そしてゴム会社の高純度SiCのパイロットプラントは、図学と速度論を駆使して設計された。大学の知識が役立たないというのは、32年間のサラリーマン生活を振り返るとおかしな意見である。
50歳過ぎてラインから外れ単身赴任した時に、火が着いていた定着ローラの品質問題を解決した。この時に、部品メーカーのあまりにもお粗末な開発陣に憤りを感じた。シリコーンLIMSの経験について思い出すと基礎学力の重要性を考えてしまう。
部品メーカーの開発スタッフは偏差値の高い大学出身者が揃っており、温度が強度因子であることや反応速度論の問題を理解しているはずだ。しかし、生産現場はそれが伺われないお粗末な状況だった。
混練プロセスの問題なら同情もできるが、そのあとの科学的に対応可能なプロセスでいくつかエラーが放置され生産が行われていた。混練プロセスは科学的解明が難しいが、その他のプロセスで科学的に対応できるところは問題をすべてつぶしておかないと、混練プロセスの問題が見えなくなる。
科学の便利なところは、真理は一つ、という考え方にあり、問題解決を容易にする。混練プロセスは経験に依存するところが多いので問題解決が難しい。ゆえに生産プロセスで混練プロセスを含んでいるときには、その他のプロセスで科学的に解決できる問題をすべてつぶしておくことが重要である。
カテゴリー : 高分子
pagetop