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2015.02/01 混練プロセス(27)高次構造を混練プロセスで設計

高分子の高次構造を混練プロセスで設計できる、と教えてくれたのは指導社員である。混練プロセスでは非晶領域を主に変性できる、と教えてくれた。高分子の結晶について研究が進み始めたころのことで、アモルファスの研究は無機のガラスでも進んでいなかった。当時ガラスの研究についてはそこから結晶化する挙動を解析しそのモルフォロジーを議論する論文が窯業協会誌に多数投稿されていた時代である。

 

何が混練プロセスでどう変わるのか、と言うことを論じている論文などなかった。混練プロセスはブラックボックス化された世界だった。またゴム会社の中でも優れた技術者は独自の世界観を持って混練プロセスを開発していた。指導社員もその一人で、彼の見解に関して批判する技術者もいた。

 

しかしダッシュポットとばねのモデルを関数電卓で計算する姿についてほとんどの技術者は驚いていた。さらに計算をしながらゴムの世界のシミュレーションをこのモデルで計算する時代は終わった、とぶつぶつ語る姿は、若い技術者にはかっこよくも見えた。

 

最初説明を聞いた時にはさっぱりわからなかったが、tanΔの形が非晶領域と関係している仮説及びそれをモデル計算した結果となぜ樹脂と複合化し樹脂補強ゴムとするのかという講義は、座学だけでなく混練プロセスの現場でも展開され、高分子ガラスへの関心が高まった。しかし窯業協会誌に掲載された無機のガラスの研究に感化され、3ケ月後にまとめた研究報告書は、樹脂補強ゴムの弾性率と樹脂の結晶化度に関する考察となった。

 

指導社員から伝承された技術内容を科学的にまとめることなど難しく、当時X線の小角散乱などで容易に研究できた高分子結晶の視点で研究報告書をまとめた。指導社員に提出したところ、指導した内容ではなく独自の見解をまとめるほど優秀だ、と皮肉交じりに褒められたことを覚えている。

 

本当は指導された内容で報告書をまとめたかったが、非晶領域の科学的アプローチの方法がよくわからなかったのだ。指導社員から学んだのは技術であって科学ではない、と思っていたほどだ。しかしテーマを終了後改めて講義録を読み直すと内容は科学的論理で展開され、シミュレーション結果は3ケ月間に集められたデータによって実証されていた。

 

この時の経験はゴム会社でその後生かされず、写真会社に転職して開花した。特にブルーレイ用対物樹脂レンズは生産不可能とテーマを担当した直後に発表したり、PPS中間転写ベルトを外部のコンパウンドメーカーに頼っていては開発を失敗すると提案してコンパウンド内製化を成功させたりと周囲を驚かせた(顰蹙をかったのかもしれないが)。いずれも非晶質の挙動に着目して開発した成果である。

カテゴリー : 高分子

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