2015.02/14 イノベーション(5)
昭和35年の特許を基に開発したフィルムの帯電防止層は、温故知新の言葉通りのイノベーションだった。金属の塩化物を加水分解して水溶液のゾルを合成する。そこへ高分子バインダーをまぜて帯電防止層の塗布液とする。ここまでは古い特許に記載された通りである。
しかし塗布の条件をうまく制御しないとパーコレーション転移が起きず、導電性の無い薄膜となる。まず、現象をシミュレーションするプログラムを開発し、パーコレーション転移が起きた時にどれだけの導電性の薄膜になるのか予想した。
次にパーコレーション転移の検出感度が高い評価技術を開発し、パーコレーション転移がどのような製造条件で起きるのか探った。見方を変えれば、このような手順は昭和35年の特許に書かれた実施例をリバースエンジニアリングしているようなものだ。
写真会社に転職した時、日本化学会や高分子学会ではパーコレーション転移という言葉は、一般的ではなく、このような現象を考察するときには抵抗の並列接続と直列接続をモデルに考える混合則が一般的であった。ただ、数学や物理の世界では知られており、スタウファーの著書なども販売されていた。
昭和35年の特許が公告となった時は、ITO薄膜が発明された頃であり、パーコレーション転移のような概念は知られていなかった。だから杜撰な発明になっていても仕方がないことである。パーコレーション転移は数学的には確率で引き起こされる現象なので、論理的ではなく偶然発明が完成するということも起きる。おそらく当時の発明者は、本当に驚いて「驚くべきことに」と特許に記載したのだろう。
科学ではこのような場合になぜ起きたかが重要になってくるが、技術では繰り返し安定におきるかどうかが重要になってくる。偶然見出された機能がなぜできたのかわからなくても、同じ動作を繰り返し、安定に機能を再現できれば、技術として完成したことになる。余談だが、これをだれでも設計段階でロバストを高く出来るようにしたのがタグチメソッドだ。
酸化スズゾルの技術では、パーコレーション転移の制御方法が意図的に隠されたのか、あるいは発明者が気がついていなかったのか不明だが、この発明の扱われ方から、後者であった可能性が高い。
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