2015.03/22 イノベーション(41)素材メーカーの場合
高純度SiCの応用分野としてダミーウェハーやるつぼ、ヒーターなどの半導体冶工具がある。さらにハイブリッド車に採用されているインバーター用のパワートランジスタとして最近用途が広がってきたSiCウェハーがある。
SiCウェハーを製造するには、シリコンウェハーと同様に大口径の単結晶が必要である。最近はレーリー法(昇華再結晶法)で6インチの口径の単結晶が作られているが、この技術が開発されたのは1980年前後であり、現在に至るまで30年以上かかっている。
最近レーリー法以外にSiCの液相から育成する方法やメタンガスとシランガスを用いる方法が登場し、検討が進められている。特にガスを用いる方法は結晶成長速度が速く生産性が高いので有望視されている。
現在SiCウェハーに必要な単結晶を製造する方法は3種類が注目され検討が進められているが、この3種類とも高温度で製造する点において大同小異である。これを大同小異と表現したのはイノベーションの観点からである。
詳細を省略するが、レーリー法の結晶成長速度がガス法よりも遅い科学的理由があるが、これを技術で改善するのもイノベーションの一つである(注)。また、ガス法や液相法を改善して今すぐにレーリー法同等の単結晶を製造するのもイノベーションである。あるいは単結晶を育成する第4の方法、それも低温度で生産性の高い方法を開発するのイノベーションである。
SiCウェハー分野にはこのように多くのイノベーションの機会があり、さらに不連続な破壊的創造を行う方法も複数存在する。ここでどのようなイノベーションを狙うのか?新たな第4の方法を狙うのは研究者ならば興味深いターゲットであるが、技術者ならばレーリー法の結晶成長速度をガス法並みに高めるイノベーションを狙いたい。マネベーションで容易にできそうだからだ。
イノベーションは困難な課題に立ち向かうことが要求されているのではない。破壊的創造を行う課程で困難な課題に遭遇する”場合もある”のだ。ドラッカーはイノベーションは単純でなければならない、と述べている。
最も単純で成果が得られそうだからといって価値が低いのではない。イノベーションを起こすことができたときに高い付加価値が生まれるのである。すなわち実現できそうな易しい課題でイノベーションを起こすことができれば効率よく付加価値を高めることが可能である。
高純度SiCの技術開発から約20年離れていたが、某国立大学で取得予定だった学位の問題もあり勉強を続けてきた。途中ですばらしい機会があり無事学位を取得できたが、内容の半分はSiCの反応速度論である。
(注)科学では真理が一つであるが、技術では機能を実現する方法がいくつもある。この意味が不明であればwww.miragiken.comをご覧ください。
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