2015.03/24 コンパウンドと射出成型(1)
射出成型技術を研究されている大学の先生と議論した時の話。この先生に研究のゴールを尋ねたら、どのようなコンパウンドを用いても高品質の射出成形体を製造できる技術の確立と答えられた。当方は、先生の御研究は永遠に続きますね、とお答えした。
もしこれが企業の研究者の回答だったなら、笑ったかもしれない。しかし、もしこの先生のゴールが実現されたなら、それはものすごいイノベーションになるので、大学の研究者だからそのくらいの目標を持っていただいた方が良いと感動した。ところが、この先生の回答の内容は、企業の立場の研究者の答ならば、いつ実現できるのかわからないゴールという理由で評価が変わる。
射出成型とコンパウンドの関係については、不明点が多い。教科書に書かれている話にも疑わしいケースが存在する。それでも押出成形とコンパウンドの関係よりも易しい問題である。そもそも成形技術とコンパウンドとの関係を科学的に論じようとするならば、分子量はじめ多くのパラメーターを管理して製造したコンパウンドを用いなければならない。
また、実用化されているコンパウンドには、酸化防止剤はじめ多くの添加剤が添加されている。少量と言えども成形体の表面の品質に影響を与えている場合もある。さらに多くのコンパウンドはペレットの形で供給されるが、このペレット一粒ずつの組成や物性等がばらついている。そのばらつきが無視できない場合には、成形体の力学物物性に影響が出る。
このような事情から、コンパウンドと射出成型の関係を科学的研究で明らかにしようとするのは、大変なことなのだ。先生も大変なテーマを選ばれましたね、と申し上げたところ、大変だから面白い、と言われていた。
射出成型だけでなく、その他の成形技術において、コンパウンドの品質が、製造される成形体の品質を左右することはよく知られているが、そのプロセシングで起きている現象については未だブラックボックスの状態に近い。現在でも科学的研究には取り上げにくい分野である。
カテゴリー : 高分子
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