2015.03/25 コンパウンドと射出成型(2)
射出成型技術を科学的に解明し、どのようなコンパウンドでも高品質の成形体が得られるようにする技術の確立が難しいのは、PETを射出成型してみると理解できる。PETの射出成型は困難である、と教科書には書かれている。さらに、PETは、射出成型が不可能なのでフィルムやブロー成形用の樹脂として発展した、と表現している論文もある。
但し、PETの射出成型が不可能という結論は間違っている。生産性を無視し金型温度を徐冷しながら行えば、表面性の良い成形体が得られる。但し弾性率の低いPEのような成形体であり、用途を探すのは難しい。PCやABS、PSのような成形体をPETで得るためには、射出成型技術だけの改良では問題解決できず、どうしてもコンパウンドを改質しなければならない。
PETが登場した時に射出成型技術についても研究され、PET樹脂の変性も研究されたが良好な射出成形体が得られなかったので、PETの射出成型は不可能と言う研究者まで現れるに至った。こうしたPETの技術開発の背景とポリマーアロイの技術の進歩や二軸混練機の革新、そしてPETボトルのリサイクルニーズを見て、イノベーションの好機ととらえPETの射出成型に取り組んでみた。
取り組んで一か月でPET100%の技術に見切りをつけ、ポリマーアロイの可能性を追求し、UL94-V0以上の高い難燃性を得るならばPC/ABSと同様のアプローチが、UL94ーV2レベルならばPET80wt%程度で実現できると結論を出した。
二ケ月目で靱性がやや低いが、UL94-V2に通過できる射出成形体が得られ、三か月目に電子写真の内装材に実用化できる材料の目途が立った。強相関ソフトマテリアルというコンセプトとカオス混合、動的加硫の技術を用いて成功したのだが、イノベーションに成功してみて実行した当方も驚く結果だった。
PETの射出成型を可能にしたコンパウンドは、PCはじめ5種類のポリマーが添加された複雑な組成である。また、このようなポリマーアロイなので、カオス混合を行わなければ、良好な表面性が得られる成形体を製造可能なコンパウンドにならない。この事例にみられるように、射出成型技術に与えるコンパウンドプロセスの影響は少なからずあり、高分子の種類により大きく現れることもあるので、コンパウンド技術を無視して射出成型技術の開発だけを目標に研究を進めるのはかなりの困難を伴う。
カテゴリー : 高分子
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