2015.04/20 科学の重要性(7)
SiCは、天然に存在しない化合物で、アチソン法やシリカ還元法で工業的に生産されている。いずれもシリカとカーボンの反応で作られているが、前者は高温度で合成するので6Hが主体のインゴットとして生産物が得られ、後者は3Cの粉体として得られる特徴がある。
合成される結晶相は異なるが、両者ともに合成時の反応はシリカと炭素で起きており、高純度SiCを発明した当時は2種類の反応機構が知られていた。しかし、その反応機構のいずれも中間体としてSiOガスを仮定しており、ガス相が存在するためにバイプロダクトとしてSiCウィスカーが生成する問題があった(注)。
すなわち、SiCにはダイヤモンドと同じ結晶構造の化合物以外に多数の結晶系の化合物が知られており(これを多形という)、SiC以外の不純物だけでなく異なる結晶が不純物となる問題があった。ちなみにSiCウィスカーは、2Hの結晶系だった。ゆえにシリカ還元法では、どれほど純度をあげても当時の生産方法によると3Cの結晶系に2Hの不純物が混ざって生産されることになる。
アチソン法では、高温度でSiC化を行うので、このSiCウィスカーはインゴットと同様の結晶系へ転移する。しかし、高温度で生成する他の結晶系が不純物として混ざってくる問題が発生していた。
超微粒子の高純度SiC合成法として、CVD法の一種であるレーザー法やプラズマ法も開発されていたが、工業生産には不向きであった。微粒子の工業生産にはシリカ還元法が適しているが、SiCウィスカーの不純物を除去しなければいけない、という問題を抱えていた。
当方の発明した高分子前駆体法では、最初から3C単相の微粒子が得られ、不純物は存在しなかった。これは当時ものすごく驚くべきことで、その目の前の黄色い粉体から従来知られていなかった反応機構で合成されたことは明らかだった。
ゆえに無機材質研究所で3日間の研究で得られた高純度SiCを見てから、反応機構の解明は科学的に重要な研究になる、と直感した。そしてすぐに熱天秤の調査を行ったのだが、そもそも2000℃まで加熱できる熱天秤そのものが無く、この研究の律速段階は熱天秤の開発になる、と考えて、すぐにその設計を始めた。
STAP細胞の騒動では、未熟な研究者が「できている」ということを歓喜し連呼していた。科学では「新しい現象」の発見は重要な活動の一つなので、現象が起きたことを喜ぶことは大切である。しかし、成熟した科学者は、新しい現象の発見で「なぜ」を解明したい衝動に駆られ、新しい現象を喜ぶと同時に新たな苦悩が始まる。一方、一流の技術者は、新しい現象を人類に役立てる使命に燃え、歓喜し動き出す。
科学者にも技術者にも科学の新しい現象は重要な意味を持つ。ゆえに現象の新しさを認識するために、科学者はもちろん技術者にも科学という哲学は重要であるが、新しい「こと」だけを喜んでいてはだめなのである。新しい現象を発見したら、科学者は真実を知るためにその科学的な解明が重要な仕事になり、技術者には新たな機能を抽出するための作業を効率よく行うための手順を科学的に考えることが大切となる。高分子前駆体法では、科学者にも技術者にも速度論的解析が重要となった。
(注)SiCウィスカーが生成しているのでガス相の存在が推定され、ガス相の存在を確認したところSiOガスだった、と論文には書かれていたが、当時の説明はそれが真実として認められた結果、SiOガスが生成するためにウィスカーがバイプロとしてできる、と言われた。
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