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2015.04/22 科学の重要性(9)

超高温熱天秤は、熱源として赤外線イメージ炉とYAGレーザーを用いている。一般のヒーターを用いなかった理由は、サンプルのみを加熱したかったからだ。2000℃まで耐熱性のある材料は限られ、全体を加熱する構造では、安価なアルミナやシリカを用いることができない。ゆえに、試料だけを加熱する構造に設計できれば、アルミナなどを使用できるようになるだけでなく、急速加熱や急速冷却も可能になる。

 

製造された超高温熱天秤の熱源設計は、赤外線イメージ炉で1200℃まで予熱し、その後YAGレーザー光で熱を与える、という構造だった。このような構造で、1秒以内に1800℃まで確実に昇温可能となった。この性能の熱天秤で高純度SiC前駆体炭化物の恒温測定を行ったところ、核生成の律速段階がくっきりと重量減少曲線に現れた。

 

すなわち、高分子前駆体から製造された炭化物では、シリカとカーボンが分子レベルで均一に接触しており、その界面で反応開始の核が発生している。ところが、シリカとカーボンを粉体状態で混合し、同様にこの熱天秤で重量減少曲線を書かせると、この核生成の段階が観察されず、いきなり重量減少が開始し、そのプロファイルは大きく異なったものになる。

 

すなわちシリカとカーボンを粉体で混合した場合には、反応温度において部分的にシリカがカーボンにより還元されてSiOガスがシリカ表面から発生し、この反応が極めて速いために核生成段階が重量減少曲線に現れない。すなわち、高分子前駆体を用いた場合のシリカ還元法は、それまで知られていたシリカ還元法の反応機構と大きく異なることが分かった。

 

これは、昨年起きたSTAP細胞の騒動と同様の驚くべき現象で、シリカ還元法では、中間体にSiOガスの発生があるので、ウィスカーの混入は避けられないと言われていたのが、直接SiC化する反応が現象として発見され、高純度の3C単結晶の粉体を工業的に製造できる可能性が見つかったのである。

 

すぐに論文発表したかったが、会社の許可が当時下りなかった。すなわち、この見つかった現象を機能として実現し、工業生産できるようになってから、と言うことになった。その後、これも特許出願した成果であるが、異形プッシャー炉が納入された。パイロットプラントが稼働し1日10kg超高純度SiCを量産できるようになった。上司から国立T大の先生を紹介され学位論文をまとめ始めた(注)。

 

技術を技術のまま放置していてはその伝承は難しい。技術を科学としてまとめることができれば、時代が過ぎても科学という哲学がある限り、誰でも正しくその技術を実現できる。科学では不変の真実を基に知識を体系化できるからだ。科学の重要性はここにある。

 

(注)奨学金を支払い学位の指導を受けたが、学位論文がまとまった頃、写真会社へ転職したために、以前ここで書いたような科学の世界であるまじき経緯になった。

カテゴリー : 一般

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