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2015.04/30 科学の重要性(15)

企業のリーダーでTRIZやUSITを普及しようと考えている人がいるなら,今の時代はやめた方が良いとアドバイスしたい。以前にも書いたが、この手法は、旧ソビエト時代に科学的にすべての問題を解く手法として研究された方法である。コンピューターが登場したときに、ロジックで問題解決できるならコンピューターであらゆる問題を解決することが可能、と短絡的に発想して企画された。

 

冷静に考えていただきたい。現代の科学で自然現象がどこまで解明されているのか、ということを。科学ですべてが解明されているならば、TRIZやUSITで、身の回りのすべての問題を解くことが可能になるだろうが、いまだ科学で解明されていない領域が多いので、多くの科学者が失業しないで済んでいる。

 

科学で多くの自然現象が整理され、小さい頃からそれらを学んできた。その目的の一つは、科学的に未解明の現象へチャレンジできる次の世代を育てるためである。すなわち、人類の大半が未解明の科学現象が多く存在することを前提に現代の科学教育を受けている。

 

そのうえ、その未解明な科学現象が、単なる科学的知識だけでは解明できない、と考え、情操教育も含めた芸術分野の教育も義務教育で行っている。さらに知識の習得を確認するテストでは、ヤナマナカファクター発見の原動力になったあみだくじの引き方まで学べる形式が採用されたりしている。

 

自然現象を解明するのに、科学は一つの良い方法であるが、それだけでは不十分らしいことに一部の人は気がつき始めた。そしてイムレラカトシュのように科学の欠陥を指摘する人まで現れている。科学的ロジックの一つの問題として、科学的に説明できない現象が起きた場合に、それがロジックで否定されるという困ったことになる。そこに、新たな科学現象が現れていたとしても、その現象に至る科学的知識が欠落していた場合には、否定証明で否定する人が現れる。

 

現代の科学で解明されている知識だけを使い、導き出される答えとは何か。そこから生まれるのは、科学的で当たり前の結果だけである。そうでない場合には、現代の科学にどこか欠陥があることになる。だからTRIZやUSITで導かれるのは当たり前の結果であり、そのため、この方法を重視しているリーダーは、科学をよく理解した若手から軽蔑される(その逆に、理解していない若手からはうっとうしがられる)。

 

現場でこの方法を強制されてやらされている光景を見てきたが、若い人がかわいそうであった。その手法を使っている途中で答えが見えてきても、最後までまとめろと強制される(パワハラだ!)。科学のプロセスを身につける訓練ならばそれでよいかもしれない。しかし、そのような訓練は小学校時代から十分に受けてきた。若い人が目の前の問題を解くときに、科学的方法以外で行おうとしていたならば、まず、その理由を尋ねるべきである。

 

なぜなら、当人たちは目の前のテーマで解決策が無くて困っている状態だからだ。TRIZやUSITで見つかる答えならば、すでに検討済みの可能性が高い。このような理由で、TRIZやUSITを普及しようという動きがあっても、中間転写ベルトの開発では、それらを使わなかった。使っても解決策は科学的に当たり前の答えしか出ないことが見えていたのと、担当者のモラールダウンを恐れたからだ。

 

さらに前任者のこれまでの努力の結果では、科学的な方策がやり尽くされていた。換言すればにっちもさっちもゆかない状態だった。皮肉になるが、科学の良いところは、方策が無くなると袋小路に入ることだ。そしてその袋小路には、科学で未解明な現象がいっぱい隠されている。

 

イムレラカトシュは、科学で完璧にできる証明法は、否定証明だけだ、と述べている。すなわち「できない」という結論を出すには、科学は大変便利な道具である。科学的なロジックで誰もが納得できる結論を導き出すことができる。袋小路に入ったら科学的方法は重宝する。

 

電気粘性流体の増粘の問題では、界面活性剤で問題解決できないという完璧な報告書ができていた。中間転写ベルト開発において前任者に優れたところがあるとしたならば、自分でこれはできない、と言わなかったことだ。周囲のだれもが科学的にできないと見ていても、きっと誰かができるという希望を持っていたことだ。

 

中間転写ベルトのテーマを引き継いだときの状況はこうだった。だから躊躇無くヒューマンプロセスで取り組むことにした。そして、ヒューマンプロセスの成果で得られた周方向の抵抗が安定したベルトが完成したときに、それを作る方法ではなく、できあがった製品について科学的証明を行った。作る方法である「あやしい」プロセスについては、科学的品質管理方法で説明した。

 

短期間に「あやしい」新技術(これは決して怪しくない。昨年6月に高分子学会から招待講演者として呼ばれて講演している)を開発したが、これらの科学的説明で周囲は納得し、コンパウンドの内製化のため8000万円を予算外で投資した。ここに科学の重要性がある。ヒューマンプロセスについてはwww.miragiken.com をご覧ください。

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