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2015.05/19 問題解決(16)

メーカーでは技術者が経営に提案しなければいけない時代になった、と昨日書いた。これは技術者が知識労働者だからだ。今の時代は知識労働者も経営者と同じ立場にある。この前提に立ったときに日本のメーカーの技術者はそのように活動しているのだろうか、という疑問がわいてくる。

 

ゴム会社で半導体用高純度SiCを一人で担当しているときにあたかも社長直下で仕事をやっているような雰囲気だった。今や業界トップの大会社でこのような気分を味わっていたのだから、転職に至った問題はあきらめているが、そこにいたるまで今から思えば信じられないできごとが続いた。

 

高純度SiCの仕事を提案したのは、CIを導入した時の記念論文募集イベントだったが、このイベントも信じられない顛末だった。もう30年近く前の出来事なので公開するが、首席には10万円の賞金が出ることになっていたのだが、締め切りまでに応募されたのは8件だけだった。そして首席になったのは、締め切り後に書かれたとんでもない内容の論文だった。

 

当方が記念論文に応募した、という噂を聞いた当方の同期が、応募した論文を見せてみろ、と言ってきた。そして応募した当方の論文を読んで、このようなまじめな科学論文では佳作にも入らない、と言ってきた。当方は締め切り時点で8件しか応募が無いので佳作にぎりぎりはいる、と説明したら、同期は、そんなに応募が少ないのか、と驚いて事務局に電話し、今から応募しても間に合うか尋ねていた。

 

そしたら事務局は応募が低調なので職制を通じて全社に呼びかけているところだから大丈夫だ、と答えてきた。同期の友人は俺が模範解答を書いてみせる、と宣言し当方に書き上げた論文を見せてくれた。その内容は、実現性は怪しいが未来感あふれるマリンビジネスや豚の繁殖力と牛のうまみを組み合わせた生物を生み出すバイオビジネスの話など荒唐無稽な論文だった。

 

当方の未だ科学では説明できないが技術的に実現性の高い、有機高分子と無機高分子のポリマーアロイからセラミックスの高純度化を行う技術について、関連技術を調査し裏付けを採って書かれた論文に比較すると、二ー三日で書けるいい加減な論文だ、とコメントしたら、審査する側から見ればどちらも今実現されていないので同じに見える、レオポンが実現されているからトンギューのほうがセラミックスの高純度化よりも科学的に実現性が高く見える、という。さらにこの募集はお祭りの一環で審査員はW大学の先生だから、○○○○な審査になる、と予言していた。

 

この予言は当たり、「夢にあふれる論文」と高い評価を受け、当方の同期の論文が首席となった。当方の論文は佳作にも入らなかった。同期の指導社員は、こういう結果が予想されたから俺は応募しなかった、と慰めてくれたが、その後海外留学に人事部から指名され、高純度SiCの発明を無機材質研究所で成功し2億4千万円の先行投資を受けて事業をスタートすることになった。

 

経営が知識労働者に何を期待しているのか具体的に示すことが重要で、CI導入時の記念論文募集イベントは大胆な夢を期待し、それを従業員に示す目的があったのだろうと思った。ただあまりにもすごい論文を選ぶと目的とする意図が伝わらない場合もある。人間性あふれる思考、ヒューマンプロセスの難しいところである。

カテゴリー : 一般

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