2015.06/01 混練技術
高分子の混合プロセスでは混練技術が用いられる。混練の科学についてはこの10年の進歩が著しい。高分子学会でも活発な議論が行われることもある。但し、混練そのものではなく、高分子のレオロジーの側面からである。
カオス混合では、偏芯二重円筒を用いたシミュレーションが有名だが、このシミュレーションどおりの生産装置を一度見てみたいと思っている。カオス混合については、ゴム会社の新入社員時代の指導社員から頂いた宿題として30年近く考えてきた。
毎日考えていたわけではない。カオス的なことを見つけては思い出していた。結婚はカオスのようなものだ、と言っていた人がいたが、新婚時代はカオス混合をほとんど忘れていた。転職先の写真会社でもしばらく忘れていた。
誠実真摯に職務に励み外部から表彰されるような成果も二種類の業務で出したのにラインからはずされ研究所長付スタッフに突然された時には、頭の中はカオス状態になった。そしてそのとき実現可能な技術を思いついたのは偶然だった。その偶然を捕まえるための仕込み実験もこのスタッフ時代にできた。カオス混合に成功する前に、ポリオレフィンとポリスチレンの相容に成功したのだ。
これはカオス混合を実現できたときに何が起きるかを知るための重要な実験だった。換言すれば、SP値の離れた相容しないと言われている高分子の組み合わせでも相容することを確認するための実験である。左遷という不幸な機会に、STAP細胞と同様の、このきわもの的実験に成功する幸運に恵まれた。
この成功でますますカオス混合をやってみたくなった。突然写真会社とカメラ会社が合体する。そしてカメラ会社の開発部隊の中にPPSと6ナイロンの組み合わせで苦しんでいる人が偶然いた。
さらに運良く外部のコンパウンドメーカーから嫌われて、混練プラントを短期間に建設しなければいけない幸運が舞い込んだ。ラインから外されてからは人生設計の誤算続きではあったが、30年近く考えてきたことを自分で実験できるチャンスが訪れた。
混練技術の専門家ではなかったけれど、また、組織では自分で実験ができる立場ではなかったけれど、カオス混合は自分でやってみたかった実験である。恋い焦がれて、というと大げさだが、新入社員時代の宿題をやり遂げたい、と思い続けてきた実験でもある。
カオス混合に初めて成功し、PPSと6ナイロンが相容した透明な樹脂が混練機から吐出されたのは、電気炉が暴走して生まれた高純度SiCの時と同様に不思議な技術の体験である。不思議な体験ではあるが、それまでの努力を思い返すと幸運と不幸のバランスがうまくとれた結果に思えてくる。不幸だからと嘆く前に不断の努力を続け、不幸を努力の過程に混ぜ合わせることが大切である。
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