2015.07/21 技術者の度胸
昨日フェノール樹脂天井材の開発において、最初にポリエチルシリケートとフェノール樹脂のリアクティブブレンドを開発初期にチャレンジし成功した話を書いた。この検討を最初に行うかどうかで開発の見通しが変わるので最初に検討しようと提案したのだが、前例の無い反応なので科学的に成功するかどうか可能性を議論できない。すなわちやってみなければ分からない実験である。
フローリー・ハギンズ理論に反するブレンド技術だが、ポリウレタンRIMでは成功実績があると聞いていたので、科学で否定されるようなチャレンジでも臆することなく実験したいと思った。成功したときのメリットが大きかったからである。またポリエチルシリケートをせいぜい15wt%程度ブレンドするだけだったので、何とかいける、と判断していた。また、そのための事前検討として水ガラスからケイ酸ポリマーを抽出しフェノール樹脂にブレンドするヤミ研も行っていた。
いろいろ前準備を行っていたので、仕事として取り組むときのリスクについて科学的な見通しは無かったが、経験の蓄積があり、自然と度胸はできていった。またチャレンジしようとしていることが科学で保証されていない実験であることも承知していたので、観察だけは注意深くしようという心構えもできていた。
技術者は、技術者としての心構えで準備を行えば、科学で未解明の現象からうまく機能を取り出すことができるのである。ただし、そのためにわずかばかりの度胸がいる。このあたりについてE.S.ファーガソンは心眼で思いを巡らす、と述べているが、その心眼は技術者の不断の努力により蓄積された経験知に基づくものだ。
昨年のSTAP細胞の騒動の原因は、科学と技術を同じまな板の上で料理したことだとこの欄で指摘したが、小保方氏は未熟な科学者であっただけでなく技術者としての訓練を受けていなかった悲劇も災いした。おそらく度胸はかなりの大きさであることはその行動からうかがわれたが、技術の重要性を理解していなかった。理研の偉い方々も技術開発が必要であることを分かっていなかった。
騒動の最中、たった一度でもSTAP細胞ができれば良い、と言っていた人がいたが、それは科学の立場である。技術の立場では、繰り返し再現性が重要になる。たった一度でも皆が見ている前でできれば、できたという真理ができ、科学としての証明の実験になるかもしれないが、これは技術ではない。しかし、STAP細胞では、技術ができている必要があった。すなわちその後の解析で複数の細胞が必要になるからで、もしその当たりに気がついて小保方氏が技術開発をこっそりとやっていたならあのような騒動にならなかった。科学者に度胸は不要である。
カテゴリー : 一般
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