2015.07/26 未だ科学は発展途上(5)
パーコレーションという現象は、すべてが科学的に解釈されている訳ではない。特に微粒子分散系の高分子あるいは相分離した高分子において発生したパーコレーションの問題は個別に技術者の経験と勘で解決されている。しかし、日本のたいていの大企業がそうであるように、社内のプレゼンテーションで、勘と経験と度胸で問題解決しました、という内容では製品化にゴーサインはでない。
まれにゴム会社のようにKKDの成果でも許される場合があるが、それでも恥ずかしながら科学的香りを匂わせてKKDのプレゼンを行う。聞く方も了解しているからその点について突っ込んだ質問をしない。写真会社に転職して困ったのはこの点である。だから転職してすぐにパーコレーションの問題に遭遇したときにシミュレーションプログラムの開発を行った。また、導電性微粒子が分散した系で感度よくパーコレーション転移の閾値を評価できる技術も開発した。
シミュレーションプログラムと評価技術の開発を優先して行ったのは、パーコレーションという現象がすべて科学で説明できる現象ではないからだ。すなわち科学で未解明な事柄をカプセル化したオブジェクトの振る舞いを科学的に議論できるようにするためにシミュレーションプログラムと評価技術が必要だった。
酸化スズゾルを用いた帯電防止フィルムについては、技術的に開発が困難という科学的結論が出されていた。すなわち哲学者イムレラカトシュが言うところの科学的に容易な否定証明である。科学的に否定された事柄を技術者の勘と経験でできました、とやってしまったら馬鹿にされるのは雰囲気から理解できた。
おそらく日本の多くのメーカーがそうであるように科学的に問題解決された成果でなければ評価しない風土では、仮説とそれに基づく実験が重視される。ところが、そのような風土では否定証明が流行し、新しい技術の芽が生まれにくくなる。評価や分析では科学的問題解決法が便利で、また、その方法が一番良いと思うが、ものつくりでは、科学で未解明の現象から機能を取り出し利用することもあるので非科学的な問題解決プロセスも必要になる。
iPS細胞の山中先生でもヤマナカファクターをKKDで発見したことをNHKで告白したのである。KKDを見直してもいいと思っている。ただし、ヤマカンやドカンはさすがにダメであり、KKDにも山中流のような由緒正しき流儀がある。
 
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