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2015.07/30 未だ科学は発展途上(9)

酸化スズゾルを帯電防止材として世界で初めて使用した特許(特公昭35-6616)を見つけても、酸化スズゾルには導電性が無いから帯電防止材として使えないと結論が書かれたレポートがテーマを起案するための障害になった。それは、科学的な実験データでサポートされていたためである。そこで、この否定証明をひっくり返す実験を行わなければならなかった。

 

科学の限界を論じた哲学書「方法の擁護」のなかでイムレラカトシュは自然現象の証明を完璧にできる科学的方法は否定証明しかないと述べ、科学の方法で新しい自然現象の完璧な肯定証明は難しいことを指摘している。すなわち、できない、ということは、できないという実験結果とそのできない理由を述べればよいので簡単であるというのである。一方できることの証明は、誰も実現できていないことをまず成功させる必要があり、それが障害になるというのである。

 

科学的方法は分析や解析には便利だが、その使い方に気をつけなければ否定証明のオンパレードとなり、新しい技術を生み出せなくなる。現実に、酸化スズゾルを帯電防止材として使用できるかどうか、という検討では、新技術を生み出せるチャンスがあったにもかかわらず、否定証明で結論を導き、酸化スズゾルには導電性が無いという証明をデータで示して行っていた。

 

すなわち酸化スズゾルの添加量を変えて実験を行っても添加量に応じて抵抗が下がる現象が観察されなかったので、科学的推論を展開して酸化スズゾルの導電性を否定したのである。しかし特公昭35-6616に書かれた実施例では十分な導電性が得られたことになっている。担当者に尋ねてみたら、それは特許だからでしょう、といとも簡単に特許が嘘を書いているかのごときしたり顔の回答である。

 

ただし、市販の酸化スズゾルを評価したレポートでは、酸化スズゾルに含まれている微粒子の導電性を計測していなかった。この点について担当者は、それは薄膜の表面比抵抗の値から混合則を用いて推定できる、と述べていた。ただし、パーコレーションの閾値については考察していなかった。担当者と科学の議論をしていても科学的に正しく否定されるだけなので、自分で思いつき実験を行ってみた(注)。すなわち、酸化スズゾルを自然乾燥して微粒子を取り出し、それを錠剤成形してテスターを当てたところ元気よく針が動いたのでびっくりした。(続く)

 

(注)思いつきの実験を頭ごなしに否定する人がいるが、部下の思いつきの実験を否定してはいけない。むしろ思いつきばかりで仕事を進めようとする計画性のなさを気づかせることが重要である。知識に裏付けられた、戦略的な「思いつきの実験」というヒューマンプロセスの一つは発見という行為のために重要である。思いつきを意図的に行えるようにしたら思いつきではない、というつっこみはしないでもらいたい。部下に対するコーチングでは、思いつき=直感を促す質問が重要である。新現象から機能を取り出す訓練には、この直感を養う方法も含まれている。

カテゴリー : 一般

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