2015.08/13 未だ科学は発展途上(23)
中間転写ベルトのコンパウンドは、子会社の敷地を間借りして建設されたプラントで現在も生産が続けられている(現在はリスク管理の観点から国内2ケ所で生産を行っている)。科学では説明できない6ナイロンとPPSが相溶したコンパウンドが、技術で組み立てられた生産体制で品質が安定に維持(注)され、後工程の押出成形で高品質のベルト生産を可能としている。
科学の知の体系では、二相に相分離すべき系である。当初の材料設計では、この考え方に沿って開発が進められた。しかし、技術として完成できなかっただけでなく、分析を科学的に進めてもその原因を解明できなかった。
科学的に解決困難に見えたのだが、電気粘性流体の増粘の問題や酸化スズゾル薄膜の導電性問題のように、ウェルド部分では必ずこのような現象が生じるため、この技術を完成させることは不可能だという論法で前任者は否定証明を行わず、技術を完成させる意志決定をして当方に相談に来た。科学的手順でゆきづまったらヒューマンプロセスに頼る賢明さが大切である。
ところで、科学の知の体系では高分子のプロセシングの効果に関する情報が不足している。理由は、多くの高分子材料が非平衡で進行するプロセシングにより生産されているからである。これは科学的な解明が難しく、今でも研究が行われているテーマである。しかし技術では技術者の想像力により、異分野で行われている類似のプロセシングを応用することができる。そして異分野で成功した事例で起きている変化を活用し新たな材料を作り出すことができる(アナロジーの活用はヒューマンプロセスの一つ)。
技術者の知の体系では、アナロジーは重要な手段で、科学の知の体系では想像のつかない技術を生み出す原動力になっている。科学で未解明の現象でも、アナロジーにより機能を絞り出し、技術の実体として実現できる。
科学以外を排除するマネジメントでは、このような技術を生み出す土壌は育たない。TRIZやUSITなどのツールを用いて技術を科学で支配し、開発を論理的に進めることは科学の勉強になるかもしれない。しかし、実践知や暗黙知を軽蔑する風土では、形式知を超える技術を生み出すことが難しくなる。
6ナイロンとPPSが相溶し、しなやかなベルトを生み出すコンパウンドに科学的な解説を与えることは難しいが、カオス混合という技術について実践知と暗黙知がどのように生かされたのか説明することはできる。昨年高分子学会から招待されて、すでに公開された資料とその後の研究成果を基に1時間の講演を行っった。また、暑くて眠れない夜には、フローリー・ハギンズ理論の見直しを行い、睡眠不足解消に役立っている。
(注)ベルトの電気特性をコンパウンド段階でチェックしている。その結果、工場出荷されたコンパウンドでエラーが一度も起きていないという。弊社の研究開発必勝法を用いて短期間にプラント立ち上げから品質管理体制まで当方含め3人で行った。高純度SiCのプラントと同様に小平製作所に助けていただいた。