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2015.08/20 コーリーの逆合成

プロスタグランジンの全合成で有名なコーリーは、天然物の骨格合成手法の開祖と習った。彼は、それまで職人芸的であった天然物の人工的合成ルート探索手法をコンピューターでもできるようにした、有機合成のイノベーターでもある。
 
彼の合成ルート探索手法のキモは、ターゲットの化合物をスタートにして逆に合成ルートをたどりながら考える手法「逆合成」である。人工知能分野のエージェント指向という考え方もこの手法をとっていることで知られているが、これは有機合成分野において1970年代にコーリーが初めて成功した合成ルート探索手法であると学生時代に習った。
 
学生時代に、合格率が20%以下という有機合成化学の試験で毎年この問題が出ていたが、知らないかあるいは手法を身につけていない人は追試を受けなければならなかったので、化学系学生には有名な手法である。
 
ところで、この逆合成手法の「問題を逆から考える」、あるいは「問題を結論から考える」、という問題解決の手法を提唱したのは、コーリーが初めてではない。受験参考書で有名な数件出版社のチャート式数学には、チャートとして「文章題では、結論からお迎え」という標語が1970年以前から掲載されていたからだ。
 
このように問題を結論から考えると解決策がわかりやすい、という実践知は、かなり昔から知られていた可能性がある。例えばニュートンも万有引力の法則を逆から論理展開して導いている。この意味でニュートンの方法を非科学的という人もおり、科学の存在そのものが怪しい時代で、言うまでもないがチャート式数学など無かった。
 
科学的な推論は仮説から始まり、順方向に問題を解いてゆくことなので、逆からの推論は非科学的となるのだが、受験参考書にも書かれているように、問題の解決の見通しを選るのにこれほど良い手法は他に無い(注)。
 
今や目標管理が企業のマネジメントの中心になり、社長方針から各部門各組織へそのブレークダウンを行っているように、仕事の問題も逆から考える習慣になりつつある。問題を逆から考えると解きやすい、と言うことが分かっていても、実務に普及するのに少なくとも40年以上の年月がかかっている。
 
(注)弊社の運営するサイト「未来技術研究所(www.miragiken.com)」をご覧ください。

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