2015.09/29 高分子材料技術
高分子やセラミックスの材料技術は、その使われる分野によっては形式知よりも実践知や暗黙知の占める割合が多くなる技術である。困るのはこの現実を理解していない人が多い企業で仕事をしなければいけない時だ。アカデミアで何がどこまで明らかにされている、すなわちどれだけの形式知が明らかにされているのか理解していない人がいる場合に出だしを失敗するととんでもないことになる。
このような場合には、技術に関するコミュニケーションで注意が必要である。科学で大抵のことが解明されているだろうと信じている人たちとは、特に気を付けなければいけない。そのような人たちには、まずその認識が間違っていることに気が付いてもらわない限り、コミュニケーションが難しくなる。
例えば、中間転写ベルトの開発体験で書いたように、形式知以外の話を議論の場で持ち出したところ素人扱いされ相手にされなくなった。また電気粘性流体の増粘問題では、実践知で解決したとたんにFDを壊した人が現れた。とにかく科学で大半を理解できると信じている人たちは、実践知や暗黙知を軽蔑する傾向があるので注意が必要だ。理解していてもミスをする。
一方実践知や暗黙知を重視している人とのコミュニケーションでは、その人の経歴を理解してコミュニケーションを行う必要がある。科学がすべての人たちよりもコミュニケーションはとりやすいが、意見がかみ合わなくなることがあるので、その人のバックグラウンドを理解したうえで議論をする必要がある。
例えば樹脂を扱ってきた人とゴムを扱ってきた人では混練に対する考え方が異なる。セラミックスを扱ってきた人とゴムを扱ってきた人では、プロセシングや力学物性の認識は大きく異なる。例えが少し大きく振れすぎたが、このような場合に議論を円滑にするためには聞く力が要求される。議論を始める前にその人の考え方をよく聞くことである。
形式知や実践知に対して調子の良い相槌をうつ人がいる。このような人とのコミュニケーションは比較的気持ちよく進むが、実のある議論まで発展しない物足りなさが残る。高分子材料技術分野で何か問題解決に当たりたいときには、形式知を掘り下げた専門家(本物のプロ)か、あるいは職人にまず相談するのがよいと思っている。
形式知を掘り下げた専門家であれば、その知の限界を理解したうえでアドバイスをしてくれる。また職人であれば自分の体験を一生懸命話してくれる。某大学の先生は、論文を一応書いてはいるが、PPSはよくわからない材料だ、と教えてくださった。また、押出成形について「行ってこいの世界だ」と教えてくれた職人は、ゴムのコンパウンドの設計と混練プロセスの重要性を熱く語ってくれた。
ビジネスコミュニケーションやコーチングなどの研修では、事務業務を扱うシーンが多い。基礎を学ぶには良いが、ここで学んだ内容を技術の現場ですぐに生かせないもどかしさがある。技術者の研修には技術者による技術者のための内容が必要だ。弊社へご相談ください。