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2015.11/08 STAP細胞の研究費

6日にSTAP細胞の研究費用総額(2011-14年度)が1億4500万円と発表された。これが高額だったかどうかは、その後の評価になるが、人件費を見て驚いた。小保方氏に年間800万円以上も支払われていたのだ。
 
今時800万円の年収というのは、企業ならば40歳前後の主任研究員以上の役職者の年収である。この感覚からすると高額な印象にうつる。未熟な研究者という評価が出たからではない。ユニットリーダーという肩書きは恐らく企業ならば主任研究員クラスのはずであり、その立場の給与と判断したからである。
 
客員研究員時代には、総額1630万円支払われていたという。ちなみにゴム会社で高純度SiCの研究開発をスタートしたとき、大卒初任給はすでに18万円まで上がっていたが、30歳独身の研究員の年収は400万円に届いていない。新しく研究所を建てていただき、先行投資2億4000万円を研究費(注)として頂けたので喜んで研究に励んだ。
 
給与が低くても、会社が研究環境を整えてくれた感謝の気持ちと社会への貢献そして未来のパワートランジスタSiC半導体を夢見て高純度という機能を低コストで実現する技術開発にサービス残業を繰り返し没頭したのだ。留学先から戻って一年後に少し給与に上乗せがあったにもかかわらず年収500万円には届いていないが、それでも独身寮と研究所の往復の日々を過ごしていた。
 
約30年前のバブル期の人件費との比較は適切さを欠くかもしれないが、バブル崩壊でこの20年間サラリーマンの年収は実質平均200万円以上下がっており、30年前の給与水準よりも低い企業も存在する。その点を考慮すると、小保方氏の年齢の企業研究員で、そのクラスの世間が納得するであろう年収は、せいぜい450万円から500万円程度と推定できる。
 
特別な役職手当を上乗せしても、600万円を超えることはないだろう。また、単純に35歳前後独身サラリーマンの給与が年収600万円というのは破格であり、十分すぎる特別待遇である。
 
日本の大手企業では、基本賃金に役職手当を上乗せする形式で給与設計を行うので、仮に飛び級で役職を得たとしても小保方氏の年齢であれば、せいぜい年収は500万円前後となる。ちなみにバブル期のピークに東京圏の労働者の平均年収は800万円だったが、今は40歳を越えても係長クラスであれば、研究職の年収が600万円に届かない企業も存在する。
 
今時の国の研究員の破格の待遇が垣間見えた記事である。若い研究者よ、これを目標に頑張れと言いたいところだが民間との乖離が大きいので、複雑な気持ちである(現在民間よりも公務員の平均給与は高いが、その点を考慮しても公開された一連の人件費は高額と感じる。客員手当にしてもバブル期の客員教授の手当てに近い。)。
 
研究者とは本来真実を追究するのがミッションであり、その姿勢を促すためにお金で動機付けを行うのが適切だろうか。お金で動機付けを行ってきた結果、不正多発の土壌ができあがったのかもしれない。人件費を上げるよりも、身分の保障と研究環境を整える考え方が効果的に思う。
 
科学の研究者の給与については、一般の労働者の動機付け因子でとらえるべきではないだろう。身分の保証と研究環境の充実でもやる気の起きない研究者は、科学の研究職に就くべきではない。エジソンのように技術者を目指すべきである。
 
倫理感の高い研究者ならば、人類への貢献を生きがいとして、給与を唯一の目標にしないだろう。研究者は霞を食って生きなければならないのか、という議論は新聞発表されたような高い人件費の今日では時代遅れのテーマと感じている。
 
(注)ゴム会社に高純度SiCの研究開発を行う設備を新品で導入したのでこの金額でも不足した。先行投資から7年後に事業が立ち上がったので良い思い出になっているが、新聞発表では、建屋の値段も入り3億円の投資とされていた。

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