2015.12/08 フィルムのボツ
高分子の未溶融体で品質問題となった時にわかりにくいのが、押出成形により製造されるフイルムで発生するボツである。ボツについては、原料に含まれる異物で発生しやすいので、フィルターワークや工程のクリーン度をあげたりして対策する場合があるが、これで問題解決できれば幸運である。
高分子の未溶融体でボツが発生しているときにその正体を見つけることは不可能である。すなわち、正体不明のボツを見つけてはじめて高分子の未溶融体の存在を考えることになる。高分子の未溶融体は、フィルターワークでも除去できない場合が多いので消去法で答を見出すことになる。
光学用フィルムでは、延伸工程でボツが消失し、輝点異物となる場合がある。ある日PETフィルムの輝点異物を集めて分析したところ、結晶化したPETが他の部分よりも多く含まれていた。このような結果ではない場合も存在したので、断定的な結論を避けるが、高分子の未溶融体は結晶部分がまずその原因として考えられる。
写真会社で経験したTダイによるPETフィルム成形では、ボツの問題で悩むことは無かったが、しばしば遭遇する輝点異物には迷惑した。後工程の下引き処理で発生するエラーとの区別が難しいために、時々対策を誤ったりした。詳細をここでは書きにくいが、ボツが100%発生しないフィルムは存在しない、ということとボツの発生個所には局在化している場合とランダムな場合が存在する点は注意したい。全体のシステムでボツの発生の仕方が変わる(ただしここでは輝点異物がすべてボツ由来と仮定している)。
PPSは20年ほど前からそのフィルムが登場しているが、ボツの発生により量産体制に入るまでその対策に苦労した樹脂と聞いている。フィルムの中央のボツが少ないところを商品として供給していたようだ。PPSフィルムの成形は経験が無いが、PPSベルトについては10年前に業務を引き継いだ経験がある。抵抗の安定化とボツ問題の解消が最後に残ったミッションと言われ、やや尻込みした。
前任者が言うには、某フィルムメーカーがPPSフィルムの量産をできるようになったのは、写真会社でベルト成形の研究を進めたおかげだそうだ。当方が単身赴任する前に、前任者は大変低い歩留まりのPPSベルトをある方法で商品化していた。フィルムはマグロのトロのように部位を選んで切り取ることができるが、ベルトは、円柱状で成形しそのまま使用するので、それができない、だから技術的に大変難しい。
それを実用化できたのだから、と自慢し、歩留まりを上げるのが当方の仕事と言っていた。当方はその傲慢な物言いに憤りを感じたが、PPSメーカーが聞いたならもっとカチンときたかもしれない。しかしベルトはフィルムのように押し出された中央部分だけを使うということはできないので、一理ある。(明日に続く)