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2016.02/08 21世紀の開発プロセス(18)

新事業開発や研究開発のプロセスで必ず成果が出る方法があれば、誰でも知りたいだろう。特に企業でその任にある人は、具体的なメソッドをお金を出してでも、と考えておられるかもしれない。弊社の販売している研究開発必勝法は、一応その候補になり得ると考えているが、それでも70%以上の成功確率を約束できない。
 
理由は、企業風土や職場の風土、組織の問題、ヒトの問題などメソッド以外の要因が開発プロセスの成否の50%以上を占める(注1)と考えている。この問題の一般化は、研究開発必勝法に盛り込んだ一部の状況を除き、すべてを普遍のメソッドに落とし込むことは困難だと思っている。逆にこの問題についてパーフェクトの解が得られたら(会社あるいは組織の特性を熟知しなければ開発の成功確率は100%にならない)、失敗の可能性が99%以上ある仕事でも成功することがある。すなわち成功確率1%に賭ける常識外れな人物が社内から現れれば、そのようなことが起きる。
 
PPSと6ナイロン、カーボンからなる半導体無端ベルトの押出成形技術は、まさに失敗確率100%に近い仕事だった。外部のコンパウンドを購入して進められていたそのテーマ(すなわち、外部のコンパウンダーに問題解決能力が無ければ100%失敗するテーマである)は、科学的に技術開発を進める優秀なコンパウンドメーカー(注2)のバックアップもあり、簡単に成功するかに見えた。
 
しかし、無端ベルトの抵抗偏差が5%未満という高精度の押出成形技術を押出プロセスの改良だけで進めるには無理があった。さらに、科学的に推定される無端ベルトの高次構造において、6ナイロンがPPSに相容しない限り、実現できない力学物性との強相関性という問題があった。ところが、6ナイロンがPPSに相容する現象は、科学的にフローリー・ハギンズ理論から否定される。
 
まさに、科学者からみれば100%失敗する仕事でありながら、実務担当者から見れば何とかなりそうという矛盾に満ちたテーマであった。
 
この実例では、写真会社とカメラ会社という異なる企業風土の会社の合併直後であり、押出成形技術を担当していた現場の技術者がおよそ科学的な仕事を敬遠するカメラ会社のメンバーで構成されていたことが幸いしている。彼らは、必ず成功すると信じて仕事を進めていた。また、センター長はカメラ会社の出身者であり、金型の専門家でいわゆる徳のある人物だった。
 
周囲の管理職も材料に詳しい人材がいないことも成功の一因だった。唯一注意が必要だったのは、同じ写真会社出身だった部下のマネージャーで、彼は科学的に手堅く仕事を進めたいという人物だった。
 
(注1)例えば、モノができても投資タイミングが種々の理由で遅れ、事業機会を失う、ということが起きる。投資タイミングを決めるのは経営者である。経営者にはいろいろな方がおられる。
(注2)会社名は明かせないが、有名な企業の一つである。科学的に業務を進める、とは科学的に進められないプロセスの可能性について検討しない、という意味である。すなわち、科学的に仕事を進める問題の一つに、条件の検討漏れが発生する場合があるが、それに気がつかない人がほとんどである。現象が、すべて科学的に解明されておればそのようなことは生じないが、科学的に未解明な現象を取り込んでいるのに、科学的に不明な条件を安易に理解しているような条件と誤解する場合である。フローリー・ハギンズの理論をよく読んでいただければわかるが、中途半端な考え方程度の理論である。現象の説明に使っても良いが、現象から機能を取り出すときに、この理論を信用すると痛い目に遭う場合も出てくる。例えば、科学を信じていたコンパウンドメーカーは当方が工場を建てたために市場を失ったのである。技術者にとって科学は利用すべき道具であって、盲目的に信用すべき対象ではない。また、道具であるので、技術者自身も常に使えるようにメンテナンスに努めなければいけない。

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