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2016.02/09 21世紀の開発プロセス(19)

写真会社とカメラ会社が統合した会社では、55歳以上に対して早期退職制度があり、中間転写ベルトの開発に失敗したら、責任をとりやすい状況だった。仮に開発に成功しても給与は増えないが、失敗しても早期退職制度を活用して会社を辞めれば、退職金は増えた。
 
当方に仕事を頼んできた来た人物は、よく当方の状況を調べてから来てくれたのだ。その人物は、この仕事が成功した後、センター長へ昇進している。失敗しても、当方に責任を負わせれば良いとでも考えたのかもしれないが、定年近い当方にとって、そのようなことはどうでも良かった。権限とか昇進に焦点を合わせると貢献すべき焦点がぼける。当方は、どのような手段を用いても開発を成功させる決意をし、豊川へ単身赴任した。また、弊社で販売している研究開発必勝法を使用し、その切れ味を試すにはちょうど良いテーマだった。
 
職場の風土は、皆が成功を信じている士気の高い雰囲気だった。ゴム会社の研究所以外の職場風土とよく似ていた。部下にマネージャーが2名いて、一名は材料技術に詳しいマネージャーAでPPSと6ナイロン、カーボンの処方を企画した人物である。最初にこのマネージャーとは徹底的に議論した。そしてこれまでにないアイデアをコンパウンド技術に投入しない限り、問題解決不可能という結論に至った。
 
赴任して一週間で科学的見地から開発は失敗する、という見通しが得られた。この結論は、センター長まで伝えたが、何とかならんか、と求められたので、当方が何とかします、と回答した。その時、二人の部下のマネージャーは、びっくりしていた。方針変更の打ち合わせがひっくり返ったためである。
 
上司であるセンター長は、8000万円までの予算であれば何とかできるので、それでコンパウンド工場が建たないか、と尋ねてきたら、マネージャーBは不可能です、と慌てて否定した。さらにマネージャーBは、予算よりも時間が無いことを理由にコンパウンド内製化に猛反対した。
 
当方は、コンパウンド工場は二軸混練機を設置すればよいだけであるが、品質管理規定に基づくデザインレビューの各ステップを通過することが難しい点を指摘したところ、どこか子会社は無いかという話になった。すなわち、子会社に投資してコンパウンド工場を建てれば、現在社外からコンパウンドを購入しているのと同じで、コンパウンドの試験だけで済む、とセンター長が知恵を出してくださった。
 
結局、PPSと6ナイロン、カーボン系の処方は、科学的に開発が困難でどうしましょう、という会議が、子会社にコンパウンド工場を建てましょうという結論に至り、当方のサラリーマン最後の仕事の舞台環境は整った。あとは、役者を揃えることである。
 
この会議の一番の収穫は、センター長が是非成功させたい、そのためにはできることは何でもする、と言ってくださったことだ。トップの固い決意があれば、それだけで成功確率は50%を超える。そして、マネージャー以外の担当者も成功することだけを考えているので、あとはどのように演じるかである。成功を確信した。

カテゴリー : 一般

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