2016.03/14 備忘録:高分子の相溶(1)
活動報告では、当方のサラリーマン時代の成果を中心に書いているが、日々の活動で学んだ事柄を中心にした内容を書いてみる。学術的な内容を書いてみてもアカデミアの先生にかなわないから技術者の視点で実践知を中心にまとめてみたい。
セラミックスから有機高分子まで32年間材料開発に携わってきた。その中で、「二種類の物質が溶けあう」ほど難解な現象は無い、と感じている。学術的には熱力学で論じると説明がつく話ではあるが、その現象に含まれる機能を活用しなければいけない技術分野では単純な問題ではない。
料理でも、例えばカレーのルーを溶かし込むときに無精をして火を弱めずに行うとこがしてしまうことがある。見た目に均一であると油断をしていると突然吹き出したりすることがある。初めてカレーを作ったのは中学時代であるが、母親に叱られながら焦がした(注)カレーを食べた苦い思い出がある。
「溶解現象」あるいは物を溶かす作業は、材料技術で必ず遭遇するが奥が深い。大学では物理化学の一コマで熱力学的な現象として習う。物理化学の教科書では低分子あるいはイオンの溶解現象を扱い、高分子の授業では、高分子物性を調べる手段として低分子溶媒に高分子を溶かした現象を学ぶ。
当方の学生時代の教科書には、二種類の高分子を混ぜたときの現象について、いわゆるフローリー・ハギンズ理論は、2ページ程度しかその説明に裂かれていなかった。相溶という言葉の説明も格子モデルのようになった状態として説明されているだけだ。教科書の大半はフローリーの書いた高分子を短く焼き直し、そこへ高分子の合成をくっつけた内容だった。
ごれがG.R.Strobl”The Physics of Polymers”(1997)という学部学生向けに書かれた教科書では、3割以上がこの議論である。 この本は、ゴム会社で長くセラミックス技術に従事していたために、転職して必要に迫られ改めて高分子科学を勉強するために購入したが、転職後のストレスで眠れないときに大変役だった。
(注)熱力学でエネルギーの状態を知るためのパラメーター「温度」が強度因子であることを体験したのはカレーが最初である。粘度の高い物質の入った鍋の中の系を均一な温度に保つのは大変な作業である。ゆえにカレーのルーを添加するときは加熱しないで攪拌した方が安全である。またルーを溶かし込んだ後、粘度の高い物質の混合技術が無いならば、弱火で時間をかけて混合する以外においしいカレーを作る手段はない。カレーを作る作業で,非平衡状態では系の温度が不均一であることを学ぶ。ものづくりの現場でも温度計測を行うが、非平衡状態の温度計測は注意した方が良い。カレーの鍋の中は、実測すると分かることだが、50℃以上の温度差(表面94℃、鍋の底176℃は実測値である)が生じている場合もある。だから油断すると焦がす。平衡状態以外では系の温度を均一にすることは不可能である。そもそも系の温度が不均一なときは非平衡状態である。
カテゴリー : 高分子
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