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2016.03/15 備忘録:高分子の相溶(2)

東京農工大名誉教授秋山三郎先生の著書「エッセンシャルポリマーアロイ」(2012)は、ポリマーアロイを手っ取り早く勉強するためには大変良い本である。なんといっても、「---そしてFloryの格子理論の延長上に相溶性の熱力学が確立されてきた。」と現在完了進行形で書かれている。
 
この表現は、読む人により、「今もその深化に努力が続けられている」あるいは「ほぼ完成した」と意見が分かれるに違いない。この本は、曖昧さの残っているところはそのように丁寧に書いている。当方が学生時代に使っていた教科書よりも謙虚で初学者に誤解を与えない良書である。
 
高分子の相溶は、今も研究が続けられているテーマであり、フローリー・ハギンズ理論におけるχについても議論が行われている。すなわち、未だ学術的に完成した領域ではない、と言うことを技術者は知っておくべきである。
 
ゆえに秋山先生の本の出だしも言葉の整理から入っている。すなわち相溶という現象を表現する言葉も厳密に使われていない(とは本に書かれていないが)と考えた方が良い。換言すれば日本語の論文を読むときでさえその言葉の意味をよく考えなければだめだ、ということである。
 
英文では、miscibility(相溶性)とcompatibility(混和性)は分けて使用されているが、これが日本語になると、両者を相溶性と表現している場合もある。前者は、混合系が単一相を形成する能力であり、後者は非相容性ポリマーブレンドまたはポリマーコンポジットにおいて各成分物質が界面結合をする能力があることを意味している。
 
すなわち、セグメント運動を単位とする狭義の相溶性(miscibility)とミクロ分散構造を示す混和性(compatibility)とはっきり区別しなければいけない。後者は「溶」の「さんずいへん」をとり、相容という用語が用いられたりするが、これは避けるべきだと先の著書にはある。
 
このような厳密な視点で高分子材料を眺めると相溶系はごく限られたポリマーアロイだけになる。一方でミクロ分散構造を見分ける方法は実務上難しく、仮にそれを実施してもコストが高いという問題が生じる。20年ほど前、学会発表のために、ラテックスで製造したミクロ分散構造を某社に依頼してきれいな写真を撮っていただいたが、満足した写真が得られるまで1サンプル200万円ほどかかった。
 
あるコポリマーのラテックスが二種以上のコポリマーの混合物であり、技術的に安定性の悪い多元系コポリマーを製造するよりも、製造安定性の良い二種のラテックスを混合した方が経済性が良い、という結論を導き出すまでに人件費も含め2000万円ほどかかった。自分で指揮をとっていた仕事であるが「-----」と感じている。

カテゴリー : 高分子

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