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2016.03/17 備忘録:高分子の相溶(3)

二種の高分子が相溶し単一相を形成するための熱力学的必要条件は、混合のギブス自由エネルギーΔG<0すなわち負となることである。格子モデルでは、各格子に高分子のセグメントをあてはめこの条件でχパラメーターを定義し議論をしている。
 
詳細な議論は教科書を読んでいただきたいが、ここで注意をしなければいけないのは、この議論は平衡における議論である、という点だ。実務のプロセスで熱力学的平衡状態を維持することは難しいし、その状態で物質を創り出すことも困難だ。
 
ただ、この理論から二成分の高分子のそれぞれのセグメントで構成されたコポリマーを相溶化剤として用いてポリマーアロイを製造するアイデアが生まれ、多くのポリマーアロイが実用化されている。ゆえにフローリー・ハギンズ理論は実用的にもその理解が大切な理論の一つだが、二次元格子に二種のポリマーを押し込んで議論している荒っぽい理論であることを忘れてはいけない。
 
例えば、χが負にならない二種のポリマーの組み合わせでも条件が整えば相溶でき、透明にすることも可能である。三井化学のアペルというポリオレフィン樹脂があるがこの樹脂とポリスチレン(PS)を相溶させて透明にした経験がある。
 
なぜこの組み合わせを選んだのか。分子モデルを組み立てて遊んでいるときに閃いたのである。学生時代に有機合成を専攻していたので、当時アルバイトで稼いだお金で高い分子モデルを購入した。野依先生が不斉合成に成功し、名古屋大学の教授になられた時代のことで、合成反応を考えるときに分子モデルをよく使った。
 
当初講座で解放されていたモデル部品を使用していたが、自分専用の分子モデルが欲しくなり購入した。少し贅沢だったが、社会人になり捨てるのももったいないし、4年時に在籍した講座も廃止され寄付する先も無くなったので、時々遊びで使っていた。
 
アペルという樹脂のモデルを作って眺めていたらPSがすっぽり入って安定になりそうな形になった。もしかしたら、と思いアペルとPSを混練したところ白濁したポリマーブレンドが得られたが、DSCや粘弾性測定を行ったところ、一部相溶していそうな挙動が見られた。
 
そこで様々な条件でPSを重合し、16番目に得られたPS(少しPEが入ったコポリマー)をアペルに混合したところ透明なポリマーアロイが得られた。DSCや粘弾性の結果も相溶していることを示す結果が得られていた。
 
このように高分子の相溶は、コンフォメーションの一致でも起きることがあり、単純に一次構造の類似性だけで判断していると実用上は片手落ちである。コンフォメーションの効果はχのエントロピーとして効いている可能性があるので、相溶を考える場合には分子モデルで3次元的に問題をとらえることは有効である。

カテゴリー : 高分子

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