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2016.03/24 備忘録:高分子の相溶(4)

高分子の相溶を議論するときにSP値が使用される場合がある。実務では圧倒的にSP値が多いと思う。仮にOCTAでχを計算するときには、公知のSP値が使用されるので、SP値でも構わないが、χとは意味が異なることを知っておく必要がある。
 
SP値やχについて未来技術研究所(www.miragiken.com)で後日わかりやすく解説する予定でいるが、SP値は溶液論から導かれてきた考え方である。そして公開されているSP値は正則溶液という制限で成り立つ値である。
 
わかりやすく言えば、SP値で高分子の相溶を予測した場合には、経験上50%程度は予想通りの実験結果が得られたが、50%は外れたのである。すなわちSP値は考えるときの手掛かりとなるが、それですべてを語ることができないパラメーターである。
 
されど、実務では頼りになるパラメーターで、わかっちゃいるけどSP値である。ブリードアウトを対策するときにもSP値を用いたりする。できればOCTAを起動しχを計算して用いたほうが当たる確率は高くなる。しかし、実験で確認したほうが早いし確実だ、という現実がある。
 
それではポリマーアロイを設計するときに具体的にどうしたらよいのか、と尋ねられたなら、現実がわかっていても、OCTAでのシミュレーションを勧めている。
 
OCTAは20世紀最後の大発明(少しオーバーか?)で名古屋で生まれている。名古屋市の丸八マークが名前の由来で、元東大教授土井先生が名づけられた軽いシミュレーターである。OCTAの良いところは名前が軽いだけでなく、当時のコンピューターでも稼働できたように、現在のコンピューターならばサクサク動く。
 
写真会社に在職中にOCTAに出会ったが、難燃剤の設計や中間転写ベルトの材料設計などに用いた。この二つでは、シミュレーションの醍醐味を味わうことができた。これ以外もいろいろ活用してみたが、シミュレーターの癖の様なものがわかるまでよい結果が得られなかった。土井先生は三河のご出身であるが、名古屋人らしい少し癖のあるシミュレーターである。
 
しかしこの癖を理解できると、OCTAでアイデアを練ることが可能となる。PPSと6ナイロンをプロセシングで相溶させようと思いついたのは、OCTAで遊んでいるときである。χの温度依存性をいろいろ計算していたら、きれいな曲線が得られない場合があった。もしかしてコンフォメーションが影響しているのか、と予想し、カオス混合を思いついた(注)。
 
シミュレーションの良いところは、計算にお金がかからないことである。実験を行うと高価なPPSを廃棄することになる。コンピューターではせいぜい電気代と人件費で、休日に自宅で行えば、会社の電気代と人件費を節約できる。高分子の研究を行う部門の管理職はOCTAを使えるようにしておくと、それだけでも会社に貢献できる。
 
(注)カオス混合を思いついたが、この時には具体的な手段、方法までのアイデアに至っていない。ただ、カオス混合における急激な引き延ばしであればコンフォメーション変化がおこり、相溶という現象も起きやすくなるのでは、という妄想を思いついた。そしてこの妄想を頭に描きながら、現場の押出成形を見て思わずDSCを測定したくなった。妄想は衝動を呼び起こす。そしてDSCを測定したら妄想が実現しそうなことを示すデータが得られたのである。押出成形された試料のDSCデータなど、過去に山のようにたくさんあった。それらの多くのデータにも注意深く見れば兆候は存在した。しかし、この時得られたデータは、妄想実現まであと少しという情報だった。そしておそらく他の人の6年間の努力の中でその情報は得られていたかもしれないが、妄想が無ければ見過ごしてしまう、科学的論理で説明のつかないデータだった。ある意味、前任者は科学のおかげで開発に時間がかかった、と言っていいかもしれない。不謹慎であるが、時には科学を忘れ、実践知や暗黙知による妄想で現象を眺め、実験を行うのも官能的で気持ちが良いものである。現状の高分子物理の進歩では、実戦に生かせない。実戦に生かせないが、実戦終了後になぜ勝ったのか考察を行う時には役に立つ。

カテゴリー : 高分子

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