2016.03/30 備忘録:高分子の相溶(6)
(3月25日からの続き)16番目に合成されたPSを光学用ポリオレフィン樹脂と混練したところ、透明な樹脂が得られた。この実験結果は、転職してからの不幸な出来事をすべて吹き飛ばした。驚くべきことにすべての混合比率で透明になっている。
20wt%PSを相溶させた光学用ポリオレフィン樹脂で射出成形体を製造したところ透明な成形体が得られた。この成形体の面白いところは、PSのTgまで加熱すると白濁してくることである。そしてさらに加熱し、光学用ポリオレフィン樹脂のTg以上に加熱するとまた透明になる。
さらに面白いことに、この白濁する様子を細かく観察すると、射出成型時の樹脂流動の痕跡が観察されるのだ。おそらくかさ高い構造を持っている光学用ポリオレフィン樹脂とPSとが錠と鍵のような形態で相溶しているのだろう。
科学ではさらに検証を進めなければいけないが、技術の立場では、これだけの実験結果が得られれば機能の面白いアイデアをいくつか創りだすことが可能である。例えば、混練プロセスで二種類の高分子のコンフォメーションをそろえることができれば相溶現象を起こすことも可能である。そしてもし本当に相溶したならば、それを急冷すれば、χが正でも室温で安定なポリマーアロイを製造することが可能となる。
このアイデアを実行し成功したのが、PPSと6ナイロンを相溶した中間転写ベルトである。残念ながらこの成果は、退職前に推薦された高分子学会賞技術賞を受賞できなかったが、高分子の相溶という項目においてフローリー・ハギンズ理論でうまく説明できない事例だと思っている。
このようなトリッキーな事例をここで説明しているのは、高分子の相溶について教科書に書かれていることに振り回されるな、ということを伝えたいからである。高分子物理の分野は、現在進行形で研究が進められている。現在の教科書が20年後には書き直される可能性すらある。
当方が学生時代に読んだ教科書は、転職して高分子技術のリーダーになった時に使い物にならなくなっていた。N先生に勧められた難解な教科書は、自己実現意欲に火をつけた。その結果、転職した会社で新たな技術を開発し押出成形で高級機用の中間転写ベルトを製造でき、社業へ十分に貢献することができた。
カテゴリー : 高分子
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