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2016.04/29 高分子の融点(10)

無機材料のTmは、その結晶の融点である。だから無機材料ではTc(max)=Tmとなる。ところが高分子では、この関係が崩れるだけでなくDSCで測定した時のTmは、時としてブロードな吸熱ピークとなったりする。
 
これは20世紀の高分子科学の研究テーマとなっていた。そして結晶性の悪いPETについてTm+Tg=2Tc(max)なる関係式まで提案されている。この関係がどのような意味を持つのか知らないが、高分子のTmがTgやTcにすなわちガラス相や結晶相の影響を受けている、という解釈は重要である。
 
天然高分子以外は皆分子量を持つ多分散系が高分子の一つの特徴だが、分子量の異なる多成分の混合物である、という認識は、DSCでTmがブロードニングを起こす現象の説明となる。
 
また、Tmにおける明確な吸熱ピークは、サンプルに存在した結晶相への帰属が可能で、これはサンプルの同定のための重要な情報となる。すなわち高分子のTmも無機材料と同じで結晶の溶融温度であるが、各原子がひも状につながれているためにTcとのずれを引き起こしている。
 
そしてプロセシングの視点で見た場合に、束縛はされるが原子の部分的な運動が可能となるTgも溶融温度の一つ、という見方が重要だと思っている。これは教科書には書かれていないが、いろいろ高分子材料について考えるときの当方のノウハウの一つでもある。
 
例えば、高分子の相溶は、非晶質相だけで生じる現象である。結晶相で相溶現象は見つかっていない。面白いのはχの大きな高分子の組み合わせでカオス混合を用いて相溶させた時にTg以下に冷却すると相溶状態で安定化するのだ。
 
おそらく準安定状態だろうと思うが、PPSと6ナイロンをそのようにして相溶させたペレットを用いて押出成形を行っても両者が相溶したフィルムが得られる。成形過程でTm以上に加熱されるが、相溶したまま流動している。
 
この融体をゆっくり冷却するとPPSと6ナイロンはスピノーダル分解を起こし相分離する。PPSは結晶化し金属音のする物質に変化する。しかし、急冷した場合には相溶した状態のPPSが得られる。
 

カテゴリー : 高分子

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