2016.05/09 評価されない仕事
会社の仕事の中には、評価されない仕事がある。働く意味は貢献と自己実現だから評価されなくてもよいとわかっていても、自分の出した成果でほかの人が評価され昇進してゆくと、複雑な気持ちになるのが人間である。
さらには、せっかく成果を出しても恨まれるような事態になったりすることもある。例えば電気粘性流体のテーマでこんなことがあった。
高純度SiCの仕事をやりながら手伝った仕事で、あまり時間をかけたくなかったのですぐに成果を出せる戦略を考え、戦術に落として遂行したところ、恨まれた。
なぜかといえば、その成果は、お手伝いをした部署で一年以上検討して、その方法では問題解決できない、と科学的に否定証明されていた方法だったからである。しかし、依頼してきた人が、過去の検討資料も含め、情報を一切見せてくださらなかったので、否定証明の結論など知らなかった。問題を科学ではなく技術で解決しようとした当方の責任ではなく依頼側の問題である。
これは、科学がすべての問題を解決すると考える人と仕事を進めたときの怖い事例であるが、手伝った当方は非科学的に戦術を立てている。すなわち手間暇かけずに答えを出す方法で、実際に一晩で成果を出す方法を考えて遂行した。
当方は依頼された業務を早くやり終えたい一心で仕事を行ったのであり、その成果が依頼してきた部署の気に入らない成果になったのは当方の責任ではない、と思った。科学的に否定証明を行った責任者の問題である。
昔、禁煙パイポという商品で、「私はこれで会社を辞めました」というセリフがあったが、当方は結局このCMのセリフを電気粘性流体と変更してその1年後言うことになった。高純度SiCの事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げながら、気前の良さで困っていた人を助けて不幸な結果になったのである。人生、塞翁が馬というが、湾岸戦争も始まった時代で会社の中の異常な事態で出した結論が、これまでのキャリアをすて専門外の業界を選ぶ転職だった。
あらためて転職に至った理由を思い出したりしてみると、この電気粘性流体を手伝ったときのスタートが良くなかったのかもしれない。一年以上かけてプロジェクトメンバーで解決できなかった問題を一晩で解決したなら喜んでいただけてもよいはずだったが、人間はそれほど単純ではない、ということか。
三菱自動車の燃費不正問題で、測定された数値の一番低い値を採用した人の気持ちは今複雑だろう。おそらく当時の開発を担当していた人たちは、その数値が得られたおかげで燃費目標を実現出来たと大喜びをしたかもしれない。
科学ならば、一点でも発見されれば、それが真実となるが、技術では機能のロバストが重要になってくる。このことに気がついていなかったばかりに、その一点を見出した成果が評価されないどころか会社が大変なことになった。
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