2016.07/19 とにかく明るい安村
とにかく明るい安村が話題になっている。過去に不倫報道が流れたのだが、その後「安心できない安村」ということらしい。「安心してください、はいてますよ」は流行語大賞にもなった。しかし、今年はあまり話題になっていない。お笑い番組そのものも「笑点」以外低調である。
この安村氏の芸を初めて見たときに、そのばかばかしさに思わず笑った。安村氏ではなく美人の女性が演じていたならばこのような笑いにならなかったろう。ところで40年ほど前に写真家加納典明氏がラジオ番組で、自分の撮った写真を誰にでも見てもらいたいなら美しい女性をモデルにしたヌード写真を撮れば良い、少なくとも半数の人が見る、と語っていた。
常識的にはおよそ見たくもない腹の突き出た中年の裸を一年間日本中が見ることになる時代が来るとは、加納典明氏も考えていなかったろう。あの裸芸の凄いところは、ばかばかしさ以外に安村氏の体型や、キャラクター含めすべてが組み合わさっているところだ。おそらく何か一つの要素が欠けても日本中を巻き込んだ笑いにはならなかったろう。
当方は最初こそ笑ったが、あの芸を考え出した安村氏のアイデアに感心した。その後この芸を真似て真っ裸でお盆だけで隠す芸人を見かけたが、あまり話題にならなかった。やはり安村氏のすべての条件が揃って笑いにつながっている芸には、要素を抽出し練り上げた一発芸としての凄さがある。
裸で芸が行われているが、裸であることが最重要な要素ではなく、「安心してください」というフレーズこそこの芸の最も重要なポイントだろう。誰も心配などしていない。しかし、このフレーズでばかばかしさに気がつくのである。そしてそのばかばかしさに笑っているのだろう。
お盆で大事なところを隠す芸を考案した人はこのことに気がつかず、裸であることに着目し新たな芸を考案した。しかし、それは安村氏の芸ほどうけなかった。技術にも類似の出来事がある。例えば特公昭35-6616は、酸化スズゾルを透明導電体として帯電防止層に用いた世界初の特許である。
その後この特許を回避するためにアンチモンをドープした酸化スズ(少し青みがあり酸化スズゾルのような完全な透明導電体とならない)を帯電防止層として用いた特許がライバル会社から出願されている。30年ほどおびただしい数の特許がその会社から出願され続けたのだが、お盆で隠す芸同様にさほど話題にならなかった。
ところが特公昭35-6616特許の最も重要なキモはパーコレーション転移をプロセシングで制御していた点である。30年間だれもそのことに気がつかなかったわけだ。そこで1992年に複合則よりもパーコレーションの概念が重要であることを日本化学会の年会や帯電防止技術のセミナーなどで当方は講演し化学工業協会から技術特別賞まで頂いた。
その後絶縁体に導電体微粒子を分散するときの考察に複合則ではなくパーコレーションの概念を用いる考え方が普及し、今では微粒子の分散技術を考察する重要な概念としてそれは認められている。芸でも技術でもその凄さの本質を見いだし、真似ることは新たな創造につながるので大切である。
(注)パーコレーションという概念は数学の世界で昔から研究されていた。材料関係にこの概念が用いられるようになったのは、1990年前後で当方がパーコレーションのシミュレーションプログラムを論文にしようとしたときに調査したら、1991年に雑誌「炭素」で同様の論文が発表されていた。また同じころ東工大住田教授の論文も発表されていた。しかし、当時、材料系の教科書には混合則が概念として用いられていた時代である。微粒子が分散するときのクラスター生成の研究ではパーコレーションの概念を用いることが今では常識となった。
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